2016年の映画界を振り返る
(1)いよいよ無視できなくなってきたソーシャルメディアの影響力
2016年の映画業界の最大の話題は「君の名は。」のメガヒットということになるのだろうと思う。やはり200億円超えはだれにとっても予期せぬ事態だったろう。柴那典氏が「ヒットの崩壊」でも紹介している「モンスターヘッド』の象徴的存在とも言えるだろう。
『モンスターヘッド』とは、多用な商品が少しずつ売れる『ロングテール』に対し、ソーシャルメディアなどで大きく話題になった特定の商品やサービスに人気が一極集中するような状態を指す。話題のものにみんなが群がり、グラフを描いた時にてっぺんのヘッドがより巨大化していく様をモンスターと言っているわけだ。
「君の名は。」はこのモンスターヘッドの波にのっかったわけだ。これは作品の質を見るだけでは捉えきれない現象だろう。(もちろん質が良いのも条件のひとつだろうけど)
その他特記すべき作品として「シン・ゴジラ」と「この世界の片隅に」も挙げておきたい。上記のモンスターヘッド的ヒットが生まれる背景にはソーシャルメディアの普及があるわけだが、「君の名は。」と合わせてこの2作の成績は、映画興行においてもいよいよソーシャルメディアの影響力が無視できないレベルに達したことを示すものだろう。ネットはもはや一部のマニアが大きな声で叫んでいるだけという状況ではなくなってきている。ほんのちょっとしたことでどういう方向にも転がりうる危うさもあるが、東京テアトルのような非メジャー会社が配給した「この世界の片隅に」の成功は、今後の映画のマーケティングや企画立案にも影響を及ぼすだろう。
どうやって共感の輪を広げていくか、という戦略と内容の吟味がより一層重要になってくるだろう。テレビCMの効果もいまだ強いが、それだけでは大ヒットは作れなくなってきているのかもしれない。映画興行は数ヶ月の短期決戦なので、今までならテレビCMバンバン打って、番宣出演したりして、大きく話題にしたもの勝ちという傾向もあったが、これからはそれが通用しづらくなるのだろう。真剣に観客と向き合っていかなければいけないのだ。
(2)ちはやふるとアイアムアヒーロー
漫画やアニメ原作の実写化は大抵叩かれる。しかし「ちはやふる」二部作とアイアムアヒーローは、絶賛された。この東宝の配給した2本はよく出来ていたし、原作のエッセンスを損なうことなく、実写に脚色がしっかりなされていた。改変も省略もあったが、それでも原作ファン含め多くの支持を得た。
反対に酷評されたのがワーナー配給の「テラフォーマーズ」だ。おなじワーナー配給の「デスノート Light up the NEW world」も評判が悪い。奇しくも東宝は成功、ワーナーは失敗みたいな構図になってしまっているが偶然だろうか。
東宝は、小説原作の「64」や「怒り」も非常に評判がいいのだが、原作ものの扱いに何かコツでも掴んだのだろうか。「ちはやふる」も「アイアムアヒーロー」も原作へのリスペクトが感じられたし、それらのタイトルでお客さんが期待するもの、というのをきちんとわかって作っているなという印象だ。(1)でも述べたが、これもきちんと観客と向き合うということだろう。その点、ワーナーの2作はどうだっただろうか。「テラフォーマーズ」なら「アイアムアヒーロー」並みの残酷描写は必要だっただろうし、「デスノート」なら高度な心理戦が醍醐味だったはずだ。
東宝とワーナーは共同でジョジョの奇妙な冒険を実写することを発表したが、一体どんな作品なるのだろうか。ジョジョに限らずこれからも漫画やアニメ原作の実写化はたくさん企画されるだろう。企画側も真剣にファンが作品のどういうところに惹かれているのか、作り手はきちんと研究して望んでほしいと思う。
(3)定着した特殊上映
今年は応援上映のような、特殊上映が定着した年になった。「キンプリ」はむしろ応援上映がデフォという作り方をしていたし、ファンの要望に応えて後から特殊上映が企画される「遊戯王」や「シン・ゴジラ」のような作品もあった。
こうした特集上映は、昨年から一部では盛り上がりを見せていたのだが、今年はキンプリの応援上映がテレビのワイドショーで何度か取り上げられたり、「シン・ゴジラ」の発生可能上映は、全国一斉に行ったりと規模がかなり大きくなった印象だ。僕も「シン・ゴジラ」の発生可能上映に行ったけど、すごい楽しかったですよ。ゴジラの熱線出すところでみんなサイリウム振り回して熱線作ったりしてすごいなと。お客さんとの一体感がライブのようで楽しいし、お客さんが自ら考えたサイリウム演出で映画が一味ちがったものに見えてきたりもする。映画館での上映は3DやIMAX、MX4Dなど技術的にも多様化しているけど、こういう形での多様化もしてきていて、映画館での映画の楽しみ方が拡がった1年だった。
今年のベスト10はこちらの記事でまとめています。
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