今年もウディ・アレンの新作がやってきた。御年81歳だが毎年作品を精力的に発表している。尽きぬアイデアがどこから湧いてくるのかも興味深いが、そのモチベーションはどこからやってくるのか是非とも教えてもらいたい。
映画の世界も、成功するにはブランド力のようなものが必要だと思うが、アレンほどブランドイメージが固まっている監督もなかなかいない。アレンの映画はもう1つのジャンルと言ってもいいのかもしれない。映画ファンの間でなら、「アレン映画」と言えばどんなタイプの作品なのかイメージが共有できてしまう。常にニューヨークとユダヤ人に関わる物語を書くアレンだが、今回の新作もその例から外れることなく、いつものアレン節が観られる。
そんなウディ・アレンの新作「カフェ・ソサエティ」も、どこをどう切り取っても「アレン映画」である。ジェシー・アイゼンバーグ演じる主人公のボビーが、うだつの上がらないニューヨークでの生活を捨て、ハリウッドのエージェントとして成功している叔父(スティーブ・カレル)を訪ねる。
ボビーは叔父の仕事を手伝い、ショービジネスの世界でコネを掴み始める。私生活の方でも叔父の秘書をしているヴェロニカ(クリステン・スチュワート)と恋に落ちて順風満帆だが、ヴェロニカは実は妻子持ちの叔父とも関係を持っていたのだった。
結局ヴェロニカと別れることになったボビーは失意のままニューヨークに戻り、ギャングの兄がオープンしたナイトクラブで働くようになる。
やがてそこで頭角を表し、ボビーはまたもヴェロニカという名前の女性に惹かれていく。しかしハリウッドのヴェロニカを忘れたわけでもなく、ある日叔父とヴェロニカがNYにやってくることを知ったボビーは彼女と再会するのだが・・・といったストーリー。ここにちょっと神経脅迫症ぎみの個性豊かなユダヤ人家族が絡んできて、滑稽な人間模様が展開する。
今作はアレン自身の過去作からの引用も多い。
「さよならハリウッド」や「セレブレティ」など、ショービジネスの世界を題材にした作品をいくつも撮ってきたアレンだが、セレブに対するやや冷めた視点は、こうした過去の作品とも共通する点だし、ギャングの兄の殺しの手の速さは「ブロードウェイと銃弾」のようだ。
ニューヨークのシーンでは往年の名作「マンハッタン」を思わせるような、明け方のニューヨークのシーンも出てくる。
それにしても、男女の心の機微を描かせたら、アレンは本当に上手い。夢を追う男女の恋愛模様と言えば、今年は「ラ・ラ・ランド」があったが、男女の恋心のすれ違い様の模様の繊細はこの作品が上回る。「ラ・ラ・ランド」には若さと勢いがあったが、こちらは人生の酸いも甘いも噛みしめるといった風情が漂う。
今回の作品も、「いつも通り」素晴らしい作品だった。高い水準で変わらずにいるということはとてつもなく難しいことだ。それを難なくやってしまっているように感じさせる軽妙さがまたすごい。