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映画の民主化を模索している。『ライオンは今夜死ぬ』諏訪敦彦監督インタビュー

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 『M/OTHER』や『不完全なふたり』で知られる諏訪敦彦監督の8年ぶりの新作『ライオンは今夜死ぬ』が1月20日から公開される。台本を作らずに即興で演出するスタイルの名手として知られる諏訪監督は日本とフランス両国で高い評価を得ている。

 今回は、フランスを代表する名優、ジャン=ピエール・レオーを主演に迎え、南仏を舞台に年老いた俳優と映画撮影に挑む子どもたちの交流を通じて、過去の記憶と向かい合う男を描いている。

 日本でこども映画教室に参加した経験を本作にも活かしたという諏訪監督。本作についての話しを聞いた。

こども映画教室で得た気づき

諏訪敦彦監督

——こども映画教室に参加されたことをきっかけに子どもたちを映画に登場させることを思いついたそうですが、映画教室でどんなことを感じたのですか。

諏訪敦彦(以下諏訪):最初は軽い気持ちで引き受けたんですが、作品が出来上がるプロセスがすごく面白いんですね。
 大人は絶対に口出ししないという取り決めなんですが、子どもたちの間にいろんなことが起こってくるんです。子どもは発想が自由だというイメージがありますけど、子どもたちも結局自分の観てきたものや好きなものに規定されてるんですよね。忍者好きな子は忍者やりたいとか、刑事やりたいだったりとか。
でも彼らが大人と違うのは、先入観はいつでもすぐ壊れるということです。映画ってこういうのもアリかもしれないとか、こういうこともできるみたいな気付きの瞬間がたくさん訪れるんです。大人は先入観を壊すのに相当な努力が必要でなかなか自由になれないけれど、子どもは変わるのが早いんですよね。
 僕の参加した回は、台本を書かずいきなり撮影に入るようにしました。それと監督を決めません。映画教室は一般的には、監督やスタッフを決めて一般的な映画制作システムに則ってやりますが、それは大人の真似事でしかないし、みなで考える機会を奪います。
 そのぶん意思決定は大変です。一般の映画製作なら監督がこうだと決めたら、それに従いますが、監督がいなければ、意見の強い子や弱い子がでてくる、でもそれを何とかして乗り越えないと終わらないわけです。そういう時に彼らは人間的な関係を乗り越えていくんです。
 役割を決めてやるのも悪いわけじゃないですが、それだと職業教育であって、人間教育にならないと思うんです。人間として乗り越えるものが映画製作にはあると思うので。

 

——映画の現場で社会の民主制を模索しているような話に聞こえました。その映画教室での体験は監督ご自身の今作でのやり方にも影響を与えたんでしょうか。

諏訪: 今おっしゃったように、民主主義的な映画の作り方を模索してるってのは確かにそうで、自分の中にそういう欲望があります。映画というのは今のところそういう世界ではなく、監督が君臨してやるのが一番スムーズなシステムだと信じ込まれているんですね。もちろん巨大化した産業システムとしてはそういうものも必要だと思いますが。
 特に、日本映画の現場ではみんなで話し合うというのをすごく嫌いますよね。船頭多くして船山に登るって言うんだよって。(笑) 
 僕は映画というのは、みんなで力をあわせてやっていくのが面白いということが、映画の豊かな側面だと思います。
 出演してる子たちがみんな即興で芝居してるんだけど、みんな自分で演技してるんですよ。人に言われてやってる子がいないんです。普通の映画というのは、監督に言われてやってる従順な人たちが映ってるだけなんですよね。だけど、その子たちは誰にも言われないで、自分たち考えてやってるんですよ。それは美しいことじゃないかと思いましたね。

(C)2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BALTHAZAR-BITTERS END

フランスの映画スタッフは生活に余裕がある

——監督は日本とフランスで映画を作ってこられましたが、フランスと日本の映画製作に違いはありますか。

諏訪:基本的にはそんなに変わりませんが、フランスのスタッフは生活に余裕がありますね。例えば撮影時間は1日8時間が基本ですし、土日は休みで5日以上連続の撮影はやらない決まりですし、小さなことだけどお昼休みの1時間は、みんな仕事をやめて一緒に食事します。日本だとお昼時間でも誰かが仕事してるんですよね。
 あとは児童保護もしっかりしていて、子どもたちは撮影現場に1日4時間しか拘束できないんです。厳密には現場に入って出るまで4時間です。学校のある期間は3時間です。もしこれを違反して見つかると撮影中止になります。それと子どものギャラは本人の口座にしか振り込まないようになっています。
現場としては拘束時間が短ければそれだけ困ることになるけど、非常に大事なことですね。
 日本の場合は、映画のスタッフは生活を犠牲にしないとやっていけません。フランスは恵まれすぎと言えば恵まれすぎかもしれないけど、日本はあまりにもひどすぎですね。それでもこれだけ映画が作られ、若い人たちが頑張ってるのはすごいことだと思うけど、まあ構造的には搾取ですよね。

(C)2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BALTHAZAR-BITTERS END

子どもみたいに観てほしい

——子どもたちの快活さもあって、死のイメージが漂いながらも明るい映画になっていますね。

諏訪:僕がジャン=ピエール・レオーと話したのは、今回の映画のテーマは生きることは素晴らしい、ということだったんです。彼は最近お坊さんにハマってるらしくて、アジアに行くと必ずお坊さんに会いに行くそうですが、暗い話にはしたくないというんですね。なぜかというと、彼は精神的にそっちに引っ張られて落ちちゃう可能性があるから。そうすると這い上がってくるのが大変なんだと思うんです。
 僕は今まであまり明るい題材を扱ってこなかったから、今は世界的にもより暗い状況だと思うので、楽しい映画にしたかったんです。

 

——観客にこの映画を観る時にどんな風に思ってほしいですか。

諏訪:最近よく上映前に、子どもみたいに観てほしいということを言います。大人は、あのシーンの意図はなんだろうとか、いろいろ納得したがるわけですが、子供は遊んでるのが面白いから遊ぶのであって、そんな風に観て面白ければいいと思うんです。子どもの遊びって目的もなければ意味もない、そういう時間の豊かさってあると思うんで、映画を観る時間がそういう時間であってほしいと思ってます。

 

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