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本当のサリンジャーはどんな人? 伝説の作家を探し出した実体験を映画化、『ライ麦畑で出会ったら」監督インタビュー

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『ライ麦畑でつかまえて』。1951年に出版されたこの小説は、青春小説の名作として今も愛され続けている。

 そんな名作から生まれた映画が10月27日から公開される。といっても『ライ麦畑でつかまえて』の映画化ではない。サリンジャーは決してこの作品の映画化を許可しない。

 テレビドラマで多くの実績を残してきたジェームズ・サドウィズが監督した『ライ麦畑で出会ったら』は、監督自身の体験を基にした青春映画だ。高校時代、『ライ麦畑でつかまえて』の熱烈なファンだったサドウィズ氏は、演劇サークルで舞台化を試みるが、そのためには小説の著作権を持つサリンジャーの許可が必要になる。我こそはサリンジャーの真の理解者だと信じて疑わなかった高校時代のサドウィズ氏は、舞台化の許可を得るために高校の寮を飛び出し、サリンジャー探しの旅に出た。

『ライ麦畑でつかまえて』を出版後、サリンジャーはニューハンプシャー州のコネチカットで隠遁生活を送っており、メディアにも一切登場せず、世間からは世捨て人のように思われていた。そんな彼を実際に探し出した自身の冒険譚を映画化したのが本作だ。

 あの伝説のサリンジャーと直に会ったという貴重な経験の持ち主であるジェームズ・サドウィズ監督に映画とサリンジャーについて語ってもらった。

 

実際のサリンジャーの印象は?

ジェームズ・サドウィズ監督

――監督は実際にサリンジャーと会ったわけですが、彼に会う前にはどんなイメージを持っていましたか。

ジェームズ・サドウィズ監督(以下サドウィズ):あまり考えていませんでしたね。当時、サリンジャーの実像についての情報はほとんどありませんでしたし、私も写真を見たことがあるだけでした。まあ、これだけの小説を書いた人なのだから、強いオーラを持った人だろうぐらいには思っていたかもしれません。

 そうですね、思い返してみると、彼の家にたどり着く前には、きっと家はすごく高い壁に囲われていて、中にはドーベルマンみたいな警備犬がたくさん放たれているんじゃないかと思っていたかもしれません。でも僕が犬に襲われてもきっとサリンジャーは助けてくれるはずだとなぜか確信していましたね。心のどこかでヒーローみたいな人物像を思い描いていたんじゃないかと思います。実際にはドーベルマンではなく、ダックスフンドのような小型犬を数匹飼っていました。その犬たちは僕の足元までやって来て、キャンキャン吠え立てていましたよ。(笑)

 ただ一つ言えることは、彼が私に絶対に関心を持ってくれると確信していたことです。映画でもそのように描きましたが、邪険にされるなんて微塵も思っていませんでした。(笑)

 
――僕は、とても人間嫌いな人だろうと思っていたので、もっと手ひどく追い返されるんじゃないかと思っていました。

サドウィズ:世間の印象はそういうものかもしれませんね。追い返されはしませんでしたが、とっとと帰ってほしいと思っていることは非常によく伝わってきましたよ。(笑)

©2015 COMING THROUGH THE RYE, LLC ALL RIGHTS RESERVED

――本作のサリンジャーのキャラクターは、あなたが出会った時の印象そのままなんでしょうか、それとも彼を知る人物に取材などして膨らまして作り上げたのですか。

サドウィズ:自分の思い出から作り上げています。サリンジャーを探しに行った時、僕はテープレコーダーで起こったことやその時どう感じたかなど自分の声で細かくメモしていたんです。それを聞き直して再構築しました。サリンジャーとの会話もできるだけそのまま再現しています。

 
――サリンジャーは、コーニッシュの町の人々ともそれなりに交流があり、教会のディナーに参加したり、町民会議などにも参加するなど、人々と気軽に交流していたそうですね。映画の中で主人公は、サリンジャーの居場所を町の人に聞いて回ります。すると皆とぼけて「知らない」と言ったり、デタラメな道順を教えたりしていますね。町の人々はサリンジャーのプライベートを守るためにああいうことをしているんですよね。(参照1参照2

サドウィズ:そうですね。ただ、彼は決して社交的というわけではなく、礼儀正しい人物だったと言う方が正確でしょう。教会でディナーに参加しても1人で食事をしていたそうですし、積極的に他者と交流していたわけではないようです。

 
 コーニッシュの人々に関しては面白い話があります。サリンジャーの死後4,5ヶ月くらいの頃ですが、僕はこの話をまず本にしようとしていて、結末をどうすべきか悩んでいたんです。もう一度彼の家を見れば何かアイデアが湧くかもしれないと思ったその時、僕はコーニッシュから車で30分ほどの距離に住んでいることに気が付きました。不思議なことに、その時までサリンジャーの家の近くに住んでいたことを意識していなかったんです。

 とにかく、車をコーニッシュに走らせて、40年前と同じように道行く人や雑貨屋さんなどで彼の家がどこか訊いて回ったんです。そうしたら、40年前と全く同じように皆「知らない」とか「ここには住んでない」と言ってとぼけるんですよ。もちろんデタラメな道も案内されました。(笑)

 でもなんとか記憶を頼りにサリンジャーの家に辿り着いた時、近所の人がガーデニングをしていたので、彼の印象を訊いてみました。彼はとても感じのいいご近所さんだったと言っていましたね。ただ、やはり社交的なわけではなく、1人で過ごすことが多かったようです。

 
――すごい面白いですね。きっとコーニッシュの町の人々はそうやって40年間デタラメを教えながらサリンジャーを守っていたんですね。

 

世代を超える『ライ麦畑でつかまえて』の魅力

©2015 COMING THROUGH THE RYE, LLC ALL RIGHTS RESERVED

――映画のタイトルは「ライ麦畑でつかまえて」の基となったロバート・バーンズの詩の一説から取っていますね。

サドウィズ:小説内でも主人公のホールデンがこの詩について言及していますが、この「ライ麦畑で出会ったら(Coming Through the Rye)」というのは大人になるという意味で使われる慣用句だそうです。バージンを失うという意味もあるようですね。この映画はジェイミーの大人になる経験を描くものですから、ピッタリだと思ったんです。

 
――映画の主人公は小説の主人公のホールデンとよく似た境遇ですね。監督が『ライ麦畑でつかまえて』に惹かれたのはそういう理由もあったのでしょうか。

サドウィズ:僕があの小説に出会ったのは15歳の時です。高校では確かにホールデンのように寮生活だったし、周りはみんな偽物だと思っていましたね。映画で起きる出来事の多くは本当に僕が経験したことです。学校が終わる日に寮を飛び出してサリンジャーを探しに行ったのも事実ですし、確かによく似ていますね。

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――『ライ麦畑でつかまえて』という小説が、なぜ時代を超えて世界中で愛される作品になったと監督は考えていますか。

サドウィズ:あの小説は、当時のティーンエイジャーたちの生き様や姿勢に見事にシンクロする内容だったと思います。自分だけが特別で周囲とは違う存在なんだという気持ちや、親や学校が教える社会は偽物なんだという感覚ですね。今でもそういう感覚を持つ時期はあると思いますし、当時はもっと反体制的な空気感もありました。あの小説の表現は、当時としては言葉の使い方やセクシャルな描写についてもかなり踏み込んだ内容になっています。今の若者にとって、僕らの世代が受けたものと同じほどのインパクトがあるのかどうかはわかりませんが、社会への反抗心やイノセンスな心を守る気持ちなど現代にも通用する要素はたくさんあると思います。

 ジェイミーを演じたアレックス・ウルフも『ライ麦畑でつかまえて』の大ファンなんです。彼はオーディションの時にボロボロの小説を持ってきました。それは彼の祖父から父、そして父から兄と受け継がれたきた一冊らしくて、彼の一家にとってはとても大切なものだそうです。彼のようにホールデンに共鳴する若者は今もたくさんいるんでしょうね。

 

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