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『借りぐらしのアリエッティ』のレビューを書きました

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 リアルサウンド映画部に『借りぐらしのアリエッティ』のレビューを書きました。

『借りぐらしのアリエッティ』は決して“失敗作”ではない ダイナミズムと対極のささやかな世界の魅力|Real Sound|リアルサウンド 映画部

8月28日に地上波テレビで放送されたタイミングで公開された記事です。

 依頼が合った時、さて、「今さらジブリ作品について何を書こうかな」としばらく考え込んでいました。色んな人がいろんな角度から書きつくされているので、何が言うことあるかなあと。

 いろいろ過去のインタビューを漁りながら、原作小説をパラパラ読みながら、この映画がどうしてこういう作風になったのかな、という疑問が湧いてきました。

 というのも、原作小説は案外冒険活劇っぽい要素が強くて、スタジオジブリの得意分野だと思うんですが、映画はボーイミーツガール要素を全面に出していて、冒険活劇の要素は薄い。記事にも書きましたが、屋根裏から手作りの気球で脱出するスペクタクルな飛行シーンもあるんです。(読みながらジブリアニメでこのシーン見たいとちょっと思ってしまった)

 宮崎駿氏が脚本を書いているのに、なぜ活劇要素を全面に持ってこなかったんだろう。とうことを考えながら本作を再見してみると、あるシーンが僕の心に強く残りました。

 このシーンですね。スピラーがムササビみたいに空を飛ぶシーンです。

 飛行シーンは言うまでもなく、宮崎アニメの代名詞ですが、本作の飛行カットはこのワンカットのみ。それもすごくあっさりした描き方だったのが従来の宮崎作品とは違うなあ、と思ったのです。

 なので、これはやっぱり明らかにこれまでのジブリにない魅力を模索しているわけだろう、だから、若い米林監督が抜擢されたのだろう、ならば、その新しい魅力は何かを探す、そして、それを積極的に肯定したいなと思い、記事にしました。

 その新しいカタルシスを「少女漫画の耽美さ」、米林監督が少女漫画が好きであること、宮崎駿氏が脚本作りの時に萩尾望都の『トーマの心臓』を意識していたことなどから、スタジオジブリ作品に少女漫画的耽美さを本格的に持ち込んだ作品なのでは、という論点で書いてみました。

 プラスアルファ、被写界深度の浅さにも注目してみましたという感じです。

 米林監督のセンス、僕は結構好きなので本作と『思い出のマーニー』で見せた方向性をさらに推し進めた作品を作ってほしいなあと思っています。

 

以下、メモです。

しかし、なぜ『床下の小人たち』なのか? その質問をすると、宮さんは苦し紛れにいろんなことを言いました。この話のなかに登場する「借りぐらし」という設定がいい。いまの時代にぴったりだ。大衆消費の時代が終わりかけている。そういうときに、ものを買うんじゃなくて借りてくるという発想は、不景気もあるけど、時代がそうなってきたことの証だとも説明してくれました。 鈴木敏夫『ジブリの哲学 変わるものと変わらないもの』P108 岩波書店、2011年

少女漫画的な耽美なセンス
萩尾望都のトーマの心臓を意識していた宮崎駿

生活のリアリズムを描くタイプの作品。。。宮崎的カタルシスよりも高畑的リアリズム寄り?
ジブリ作品としては珍しい被写界深度の狭い映像。。。小人の世界を接写する映像
パンフォーカスではないアニメ映像。珍しくはないが、ジブリでは珍しい。

秘密の花園を読んでいる翔。男の子としては珍しいチョイス?

─『風立ちぬ』では、あなたは映画用カメラの絞りによって引き起こされるピント外れをシミュレートするフィルターを開発しました。なぜこの「IwaBokehFxフィルター」を開発しようと思ったのですか?

アニメをよりリアルにするために、わたしたちはレンズボケの効果をシミュレートしたいと思いました。実際、本物のレンズでは、撮影カメラに入る光は、一点のみに当たるのではなく、回折によって、一定の領域に分散します。これは、絞りを構成している金属板の形や数によるものです。 https://wired.jp/2014/08/04/studio-ghibli/

Thesis
Point3つ
・日常の中の非日常、その生活のリアルを丹念に描いた作品
  宮崎アニメよりも高畑的リアリズム寄りの作品と言える
  夏休み的映画のカタルシスとは別のカタルシスを求めるべき作品
・少女漫画的な米林監督のセンス
  りぼんを読んで育った少年時代
  少女漫画原作の耳をすませばを見てジブリに入ろうと思った
  大きな物語よりも小さな物語、日常芝居のほうが好きなのでは
  米林さんの画集は女性の絵のみ。
  萩尾望都のトーマの心臓の影響
・被写界深度の狭いカメラは何を意味するか
  パンフォーカスではない、クローズアップの多い作品。その意味でもミクロな視点が重要。
  原作者が近眼だったから思いついたと語る

ナラティブなレイヤーでのテーマも抑えるべきか?
小人との共生、借りるということ(シェアエコノミー?)
自然の中で生きていくというジブリの思想を受け継ぐ
 

Intro
金ローで放送(8月28日)。米林監督のデビュー作

ジブリらしい、けれどジブリにはなかった新鮮さもある。

概要、物語とポイントをかいつまんで。

王蟲の形によく似たダンゴムシをめでるヒロインにナウシカの面影を感じる人もいるだろう。しかし、宮崎・高畑アニメにない新鮮さを提示した意味で興味深い作品となった。
 

Body1 被写界深度の浅いカメラは何を意図したか
原作者のコメントから入る
 近眼だったから思いついた物語であるらしい

小人の世界を描くためにやったこと。挑んだこと
パンフォーカスではないジブリ作品であったこと。
 奥井さんのコメントを引用。
 ↓
 具体例をシーンで示す。

その被写界深度の浅さがもたらしたものは何か?

それは狭い世界を、二人だけの世界(箱庭的世界?)を描くためによく使われる手法では。

それが米林監督の持つセンスにもあっていたのではないか。

 
Body2 少女漫画の耽美な世界観をジブリに本格的に持ち込んだ
・米林監督は少女漫画好き
  リボン愛読者だったらしい
  トーマの心臓を意識していた宮崎駿
  少女漫画的な小さな物語が、少年漫画的大きな物語よりも前景化している。

おそらく、もっと冒険活劇のように作ることもできる題材だ。宮崎監督がやれば実際そうなったのではないか。

例えばスピラーがムササビのように飛ぶシーンなどは、宮崎監督ならダイナミックな飛行シーンの見せ場となるのだろうが、それよりも手を振って見送るアリエッティのほうが描写が長いのが米林監督なのだ。
↓ 
もしかしたら、既存の観客がジブリに求める快楽は飛行シーンのダイナミズムかもしれない。だが、それとは別のアニメーションの快楽を米林監督は追求したんじゃなかろうか。

・生活芝居を丹念に描く作品でもある。
  キッチンという生活の中心がストーリー上で重要な役割を果たす

こうしたセンスが被写界深度の浅い世界、狭い世界を描くことに合っていた。そのセンスは次作「思い出のマーニー」でさらに濃密に発揮される。

 
参考文献
米林宏昌画集 穢れなき悪戯(復刊ドットコム)
ジブリの教科書16 借りぐらしのアリエッティ(文春ジブリ文庫)
季刊 子どもと本
床下の小人たち(岩波書店、原作本)
キネマ旬報2008年8月号
少年と少女の一週間 借りぐらしのアリエッティ ガイドブック(角川書店)


メモ終わり。

僕、本作すごく好きなので、改めて書く機会があって嬉しかったです。米林監督の次回作も期待しています。

 
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