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映画の”リアル”を超えた『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は事件だ

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※以前、あるウェブメディアに書いた原稿ですが、そのメディアがなくなってしまったので、こちらに掲載します。初掲載日は、2023年1月。
 
 
 全世界の歴代映画興行収入ナンバーワン映画『アバター』の続編、『アバター:ウェイ‧オブ‧ウォーター』が12月16日、ついに公開されました。

 2009年の前作公開は、ある意味事件でした。現実にはない世界を完璧なリアリティで生み出し、3D映画の表現の限界を破り、興行的にも批評的にも大成功を収めたのです。

 監督のジェームズ‧キャメロンは、1作ごとに新しい映像体験を作り出すことで知られる野心的な作家です。その彼が満を持して製作に臨んだこの続編もまた、新しい事件なのです。

 映像の向こう側に拡がる架空世界の実在感はさらに精度を増しており、もはや何が本物で何が作り物なのかと考えることもなくなっていきます。映像に映る全てのものが目の前に存在していると思わずにはいられない、驚異的な体験を与えてくれる作品でした。

 

再び架空の惑星「パンドラ」の世界へ

 前作の『アバター』は、地球からはるか遠くに存在する神秘の星パンドラを舞台にしています。地球人は、この星の先住⺠ナヴィ族と地球人のDNAを合わせて作った「アバター」に意識を移す技術を開発します。パンドラで地球人はマスクなしでは生きられず、アバターに乗り換えることで自由に行動できるのです。

 主人公のジェイクは足が不自由なのですが、アバターに乗り換えて自在に動ける自由を満喫します。しかし、パンドラの自然を脅かす地球人は、ナヴィと対立。ジェイクはナヴィとふれあい、彼らの文化や精神をリスペクトするようになり、ナヴィの一員として人間と戦う道を選ぶのです。

 時は流れ今作では、ジェイクはナヴィの女性ネイティリと結ばれ、4人の子供を授かりました。しかし、前作でジェイクに殺されたと思われていたクオリッチ大佐のDNAが地球に保存されており、彼もまたアバターの身体を得て復活。ジェイクへの復讐のため再びパンドラにやって来るのです。

 ジェイクは家族を守るために、森から移動することを決意。水の⺠たちのもとに身を寄せるのですが、大佐の執念の追跡により、今度は海を舞台に、ナヴィと地球人との戦いが始まるのです。

 

「実在する世界で撮影してきた」と錯覚する映像体験

 本作の舞台となる惑星は地球とは生態系が異なります。それ故、画面に映るほとんど全てのものが、実際には存在しないものです。

 しかし、この映画を観ている最中はそんなことを微塵も感じないでしょう。画面に映る全ての存在に嘘っぽさが全くないのです。

 本作のナヴィの演技は、俳優たちがモーションキャプチャという技術で、動きや顔の表情のデータをデータ化し3DCGによって作成されています。その完成度が本物としか思えないレベルで、生身の人間との共演もぎこちなさが全くありません。

 キャラクターだけでなく、海や森など全ての存在が目の前に実在していると実感できます。

 本作の主な舞台は海ですが、流体で一定の形を持たない海の水を3DCGで自然に見せるためには、相当ハイレベルな技術が必要です。しかし、どのシーンも本物の海としか思えないほどにリアル。海に生きる生物たちやどこまでも透き通る蒼い海の美しさに心が奪われっぱなしの3時間になります。

 映画のリアリティは、通常ならせいぜい「映像としてリアルだな」くらいのものだと思いますが、本作のリアリティはそれを超えて、映像ではなく「眼前に本物がある」と思わせるレベルに達しています。

 本作はSF映画ではありますが、あまりの実在感に「これは本当に存在する世界で撮影してきたのでは」と錯覚してしまう瞬間が何度もありました。

 

地球と変わらぬ家族の絆を描くストーリーが泣かせる

 そんな驚異的な映像に圧倒されるだけでなく、本作の物語は普遍的かつ胸を打つものになっています。

 主人公のジェイクに子どもが生まれるところから始まるのが象徴的ですが、家族の絆を感動的に描くものとなっているのです。

 全く知らない世界を描くからこそ、テーマは誰にとっても身近なものにしているのでしょう。ジェイクと子どもたちの関係性は、口うるさいお父さんとティーンエイジャーそのままといった感じで、地球人もナヴィもその辺りは変わらないんだなと親近感を覚えます。

 ジェイクたちの子供の1人で重要な役割を担うキリを演じるのは、前作で地球からきた科学者グレース‧オーガスティン博士を演じたシガーニー‧ウィーバーです。

 キリの出自は博士と関係があるのですが、生まれの違いで他のナヴィからいじめを受ける立場にあります。パンドラの世界はとても美しいですが、地球と同じで差別もあるようです。

 前作ではナヴィとパンドラの美しい部分がたくさん描かれましたが、この続編では美しいだけじゃなく、異なる生活様式を持つ者同士の対立など複雑な社会構成も描かれるのです。

 しかし、そうした違いを乗り越えて森の⺠であるジェイク一家と水の⺠が絆を育んでいく過程が感動的ですし、なにより親子の愛の物語が秀逸です。宿敵、クオリッチ大佐の親子愛まで描かれ、映像だけでなく物語の面でも観客を惹きつける要素が満載です。

 

どのフォーマットで観るべきか

 本作の上映形態はかなり多様で、どれで観たらいいのか迷ってしまう人もいるでしょう。

 『アバター』といえば3D映画の代名詞となっているほど、3D表現とマッチした作品なので、やはり本作の鑑賞は3Dをオススメします。平面でなく立体的に体感させてくれるので、自分もパンドラにいる気分がより強く味わえるからです。

 それでいて、可能であればHFR(ハイフレームレート)形式で鑑賞できるとなお良いでしょう。

 HFRとは、通常の映画が1秒間に24フレームの静止画で構成されるところを1秒間に倍の48フレームで上映するものです。それによって激しいアクションのシーンなどでも画面のちらつきや残像がなくなり、「目の前にある」という実在感が高くなるのです。

 そして、この美しい世界を存分に眺めるためには、画面の大きいIMAXで見ればさらに魅力的です。またドルビーシネマという上映形式は、色が非常に綺麗に見えることから、ジェームズ‧キャメロン監督自身もオススメしています。

 ただ、それらの特別なスクリーンは価格も高いですし、ドルビーシネマ対応スクリーンは日本にはまだ数が少ないです。基本的に、3D+HFRであれば充分に従来の映画を超えた没入感を味わえるはずです。

 近年は3D上映自体が減少しており、若い方には3D映画上映を体験したことのない人も多いでしょう。2000年代後半から2010年代前半まで、3Dは映像フォーマットの次世代スタンダードになると言われていたのです。

 しかし、『アバター』の3Dは絶品です。見たことのない世界が驚異のリアルさで、文字通り立体的に目の前にあると感じられ、この世界が確かに存在するんだという感覚が強くなります。

 繰り返しになりますが、『アバター』という映画はそれ自体が「事件」です。この事件は映画館でしか体験できません。『アバター:ウェイ‧オブ‧ウォーター』の鑑賞は、他のどの映画とも違う特別な時間になるはずです。
 
 
 
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