キネマ旬報2024年3月号(2月20日発売)の俳優特集にて、AI時代の俳優論を書きました。
46Pの「AIは俳優にとって敵か、味方か 映像表現革命時代の俳優像」というタイトルのコラムです。拙著『映像表現革命時代の映画論』を連想させるタイトルをつけていただきました!
AIを俳優はどう使うべきか、ただ敵対しているのみではなかなか良い未来は生まれないだろうと思うので、俳優もまたAIを使いこなすという方向で考えたいと思いました。書籍の5章「AI時代の演技論」の拡張のような内容になっています。
以下、原稿作成時のメモと構成案。
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SAG-AFTRA Members Approve 2023 TV/Theatrical Contracts Tentative Agreement | SAG-AFTRA
DeepMindの研究者らが有効性を検証した、LLMに自ら高品質な訓練データを生成させる「自己学習」 | AIDB
俳優組合のAIに関する同意内容は
同意と補償なしに本人の映像がAIによって複製や改変、使用されないことの保証、などが盛り込まれた。
デジタルの複製(Digital Replica)をつくるために呼び出したエキストラ俳優には、1日分の報酬を支給すること、複製を主要キャラクターとして使用する場合、俳優本人が演じたとすれば費やしたであろう日数に応じた出演料を支払うこと、なども記載されている。
第40回:全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)ストライキ終了 AI時代の新契約とは? – otocoto | こだわりの映画エンタメサイト
最も大きな争点となっていたAIに関する文書を簡単にまとめると、雇用者が俳優のデジタルレプリカを作りたい場合、生身の俳優(パフォーマー)と明確で判然たる協定書を交わす必要がある。雇用者は協定書に基づいた報酬を支払えば、その後の追加レプリカ使用の報酬は発生しない。しかし、そのレプリカを再利用する際、元の協定書で同意した脚本や演出が変更されている場合は、新たな許諾を得る必要がある。俳優(パフォーマー)が同意した内容は彼らの死後も続き、雇用者がデジタル・レプリカを再利用する際は新たな同意書、報酬、そして印税を約束しなくてはならない。さらに、背景として登場したエキストラや定額で雇われた俳優のデジタル・レプリカ使用に関しても、レプリカとなって稼働した日数や印税が加算されて支払われなくてはならない。個々に雇用者と特別な契約書を交わすAリスト俳優(パフォーマー)には、デジタルレプリカの追加稼働料金は自動的に発生しない。さらに、シンセティック・パフォーマー、つまり、CGなどでつくられた、生身の人間を介しない俳優(パフォーマー)を使うことは、組合側への打診が義務づけられている。
「パチーノに気を遣って5キロ痩せたわ」。CGキャラ役の女優が来日 : 映画ニュース – 映画.com
Thesis
役者にとってAIは敵か味方か。
書籍の内容を踏まえるか。
ヴァル・キルマー、AIで蘇った声
– 一方で脅威論も
– ハリウッド俳優などの組合(SAG-AFTRA) のストライキに暫定合意 – 国際労働財団(JILAF) | 国際労働財団(JILAF)
最後まで残された問題は実際の俳優から虚像を造り出すAIを使ったシンセティック・フェイクだったが、この点で組合側はスタジオ側から一定の譲歩を引き出し、報酬を確約させたと言われる。
NYTが紹介する或る組合役員は「例えばジュリア・ロバーツの笑顔などを、AIシステムのデジタル俳優に取り込み、代役にした場合、今までは何等の契約的ないし法的同意の必要はなかったが、これに歯止めをかけた。暫定合意は最低部分であり、一般俳優をカバーするが、ジェニファー・ローレンスやブラッド・ピットなどのスタークラスは自分自身のエージェントを通じて契約を基に権利の上積みが出来る」と語る。
しかし、AIが加速度的に進歩する現実に対応できるのかどうかの問題も残されており、労使が半年毎に会談することも約束された。
– 米俳優労組の合意内容、AI使用の保護措置やインティマシー・コーディネーターの起用など – BBCニュース
AIの使用に関して、俳優の生死にかかわらず「事前の同意と公正な報酬」を要求する保護措置
– AIと戦うハリウッド俳優たちが示したメッセージの真価 | [WIRED.jp]
今回のストライキの争点であり、業界の多くの人たちが恐れているのは人工知能(AI)だ。今回合意したSAGのAI利用に関するルールは、活動状況や地位に関係なく、あらゆる俳優の同意と補償を要し、権利を広範に保護する内容になっている。
– https://www.sagaftra.org/files/sa_documents/AI TVTH.pdf
このPDFファイルは、テレビや演劇作品における人工知能の規制、特に出演者のデジタルレプリカの作成と使用に関するガイドラインを示しています。特に、出演者のデジタルレプリカの作成と使用に関するものです。このファイルでは、これらのレプリカの使用について、同意を得ることと補償を提供することの重要性を強調しています。以下は、このファイルに関する3つの質問例です:
実演家のデジタルレプリカの作成と使用について、実演家から同意を得るための具体的な要件は何か。
実演家はレプリカの使用に対してどのように補償されるのか、また補償額はどのような要因によって決定されるのか。
実演家のレプリカにどのようにデジタル改変を加えることができるかについて、ガイドラインや制限はありますか?
真の脅威はデジタルレプリカか、そうではない。ゼロから美男美女を生み出すことがAIには可能であり、それは写実的な存在とも限らない。つまり、あらかじめスターのデータなど必要ない時代は到来可能だ。むしろ、俳優のデータなど取得する必要のない未来ことが本当の脅威ではないか。
人間が介在する必要のない未来。
– https://twitter.com/ai_database/status/1734563358475682097
DeepMindの研究者らは、人間が作成したデータに依存する現状は今後のLLMにとって良くないと考えました。
そこで、LLMに自ら高品質なデータを生成させ、データセットを拡張する「自己学習」アプローチを開発しました。結果、自己生成データによって能力向上が確認されたとのことです。
人間が作ったデータを使う仕組みには、質も量も限界があり、さらにデータの偏りはLLMの偏りにつながります。
そこで研究者らは、LLMが自分自身によって高品質な訓練データを作成し学ぶ仕組みを考案しました。
■考案したアプローチのポイント
① 自らデータセットを拡張する
② 生成したデータが正しいかどうかを判断する
③ 数学を中心とした様々な問題解決に使える■有効性の確認実験
① 数学問題解決タスクを中心に設計
② モデル生成/人間作成データを比較分析
③ ファインチューニング■実験結果
① 数学において、正答率の向上を達成
② 異なるタイプの問題に対するモデルの適応能力が向上→人間作成データなしで能力が向上
研究者らは、自己学習はLLMにとって将来性のあるアプローチになると述べており、他の領域においても試していくべきとしています。
現在は特定のモデルと限られたタスクで検証が完了しているため、適用性をさらに調査していくべきとのことです。
– DeepMindの研究者らが有効性を検証した、LLMに自ら高品質な訓練データを生成させる「自己学習」 | AIDB
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むしろ、レプリカの素材として求められているだけ、今はまだマシかもしれない。
人間の役者でなければいけない理由はどれほど残るのか、ということが根本的な課題だ。
“実写にしか見えない”伊藤園「AIタレント」の衝撃 なぜ注目されたのか:廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(1/3 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン
CM起用で理にかなっているのはスキャンダルを恐れなくてよいということ。
ジョナサン・メジャーズなどの例が映画にもある。
モデルの世界では結構普及している。AIモデルならやせすぎなどの心配もいらない。
“実写にしか見えない”伊藤園「AIタレント」の衝撃 なぜ注目されたのか:廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(1/3 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン
I Am Nobody Cast an AI Actor and Some Fans Didn’t Notice
How Actors Will Benefit from Using AI: Artificial Intelligence in Filmindustry
あるいはAIに触発されて、人間の身体表現の可能性は拡がるか否か。
人を“エンハンス”する技術。「人間拡張」による人間×AIの新たな世界
例えば、将棋や囲碁の世界では人はAIに勝てない。だが、私たちは今でも、そうした競技で人対人の戦いが見たいと思っている。
芝居の世界でも同じ価値観を育むことは可能だろうか。さすれば、俳優はAIをアシストにして今まで以上の芝居を追求できるようになるだろう。AIによる芝居のチェック機能などはすでに生まれている。
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The 5 Main Benefits of AI over Actors in the Entertainment Industry.
構成1月15日
Point
ハリウッドのストライキ・・・SAG-AFTRAの考えるAIの脅威
テクノロジーと演技・・・役者は技術の進展で運命を変えられてきた。かつてトーキー化の時にもそれは起きた
AIがもたらす懸念と可能性
日本に関するトピック・・・幽遊白書の戸愚呂、寅さん(故人をCGでよみがえらせる是非)、AIボイスと声優の問題など?
Intro
ハリウッドの歴史的ストライキで要求されたこと
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映画はテクノロジーの産物であるがゆえに、その一部となるスタッフも俳優も技術の進展に大きな影響を受けるものだ。今再び大きな波がきていることは間違いない
Body1テクノロジーと芝居
トーキーと役者・・・・雨に唄えばを思い出そう。
実際に多くのサイレント俳優は廃業に追い込まれた。
CGと俳優・・・ここに何らかの資料が必要。CG黎明期の役者の懸念
アンディ・サーキスへの脚光・・・モーションアクターは俳優か、裏方か。
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だが、役者はこれに対応せざるを得ない。いつだってそうだった。
故人をよみがえらせる技術としても活用され出した・・・日本では寅さん、アメリカではスターウォーズのレイア姫
だが、当然倫理的な懸念はくすぶり続け、時折使用され、CGはすでに映画制作の上で不可欠なものとなっており、俳優たちはグリーンバックでの撮影を日常のものとしている。
2023年、伊藤園がCMにAIタレントを起用したことは衝撃を与えた。しかし、企業にとっては合理的な面がある。AIタレントはスキャンダルを起こさないからだ。このメリットはCMだけでなく映画にも言える。ジョナサン・メジャーズが性加害犯罪で有罪判決を受けたことで、MCUシリーズの悪役を降ろされ、ディズニーはシリーズ全体の方向転換を余儀なくされている。
Body2AI時代の懸念と可能性
トップガン・マーヴェリックでヴァル・キルマーが復活。声をAIによって作られたと言われる。
彼はこの技術によってスクリーンに復帰できた。AIによって救われた俳優がいる。
一方で、2023年はAIが俳優の肖像権を脅かすとして権利規制を求めて大規模なデモが起きた。一定の歯止めが賭けられたが、実際にはAIの真の脅威はコピー能力ではなく、役者のボディデータなしでも、理想の俳優を生み出せてしまう可能性にある。すでにLLMは、自己学習能力を獲得しつつあるという論文もあり、そうなれば、そもそも役者のデジタルデータを学習素材に用いる必要すらなくなるかもしれない。レプリカデータを必要とされている今は、まだマシという未来も考えられる。
真のAIの用意はレプリカを容易にすることではない。俳優のデータなど取得する必要のない未来ことが本当の脅威ではないか。
そして、巧みな芝居も全て数値化されれば、いつでも再現できるかもしれない。平田オリザは理想の役者はロボットだという。芝居に感情は必要ない、演出家の芝居づけを正確に行えば、観客はそこに感情を感じるのだという。
Body4結局のところ、人は映画に何を求めるのかにかかっている?
将棋や囲碁世界では、AIに人が勝てなくなった。しかし、いまだに人と人の戦いに観客は熱狂している。藤井颯太の存在はAI研究抜きには語れない。AIがあの次世代のスーパースターを生んだと考えれば、AIをアシストに人の能力は拡張されるかもしれない。
役者にも同じことをする人間が出るか。体操などの採点競技ではAIによって演技を解析し、パフォーマンス向上を目指す試みはすでにある。役者のパフォーマンス向上にAIを使う試みはあるか?
– How to Use AI as an Artist | Backstage
役柄が自分に合っているかどうかを判断する: 台本を手に入れたら、Largo.AIのようなアプリを使えば、シーンや役柄をすぐに分解することができる。パズルを組み立てて登場人物を推測する代わりに、その人物の性格をすぐに理解することができる: 陽気で明るい?深くて陰気?物憂げでメランコリック?物語の各シーンにどのように溶け込んでいるのか?こうすることで、そのプロジェクトがあなたやあなたのスキルセットにとって良い選択かどうかを素早く見極めることができる。
自分の表現を評価する: AIは、自分の演技が的を得ているかどうかをチェックするのに役立つ。Visoのようなアプリは、感情分析の機能を拡張している。基本的に、この種のツールは、顔認識ソフトウェアを通して、ユーザーから与えられたサンプルの表情を評価する。(ただし、セリフの表現に「正しい」方法はなく、AIは台本の文脈を知らないということを念頭に置いてほしい)
ビジュアライゼーション・ツールとして使う: 台本を読むのも一つの方法だが、そのシーンと自分のキャラクターがそこにどうフィットするかを想像するのはまた別のことだ。鮮明な描写をアートジェネレーターに差し込めば、実際に舞台の細部を見ることができ、その中で自分自身をよりよくイメージすることができる。
– How Actors Will Benefit from Using AI: Artificial Intelligence in Filmindustry
トップクラスの映画製作AI企業の中には、すでに俳優の適性、興行収入、演技、セリフに関する洞察サービスを提供しているところもある。映画産業における人工知能は、主にキャスティング・ディレクターや映画監督が個々の俳優の適性や演技にアクセスするのを助けるツールとして見てきたが、同じツールを俳優が使用することで、オーディションを勝ち抜き、大きな役を得る可能性を高めることができる。
プロセスは簡単だ。演技の批評などを含む過去の作品群を持つ俳優が、オーディションを受けようと考えている脚本をAI会社に分析してもらう。するとAIは台本を分析し、特定の役がどの程度適しているかについての洞察を提供することができる。
この技術を使えば、俳優は文字通り、役を読んでいるビデオを作成し、それをこれらのAI SaaSプラットフォームにアップロードすることができる。するとシステムが演技を分析し、演技に関する洞察を提供する。このような洞察は観客の好みに合わせて調整されるため、俳優は観客の前で効果的にオーディションを受け、演技の長所と短所に関するフィードバックを得ることができる。
AIの支援により、俳優はまず、自分がどの役に最も適しているかを知ることができ、適している役については、システムの洞察により演技を磨くことで、オーディションに向けた最善の準備をすることができる。
芝居は誰のものか。観客は人と人のドラマを見たいと思うのであれば、人間の役者は将棋の世界のようになくなることもないのではないか。しかし、藤井颯太のように限界を超えたさらなる芝居力を人は要求するようになるかもしれない。
発音が苦手な役者をアシストできるだろう。日本人が英語の台詞を発する時にもこのAIは使えるだろう。
なまりやアクセントは、他民族が共生する国家にとって、アイデンティティともなり得る。そのアクセントを知らない役者本人が努力するより、AIでそのアクセント再現してしまうこともできるようになるはずだ。売れない役者にとって高額なボイストレーナを雇うことは難しいだろう。
アクセントによってできる役が限られていた人にも大きな可能性を開くかもしれない。
修正
最初の権利パートは箇条書きに。
構成順番入れかえ、、、まず脅威をまとめて紹介、その後に俳優によるAIの恩恵と使いこなしのアイディアという順番に変更
その他、具体的な作品名を入れる、エイジングの例にはアイリッシュマンとか?
その他、編集部からの赤字に修正対応
やや文字量オーバーなので、なるべく削りたいということで、編集部の提案
1)中盤の「生身の人間を映画一本分すべてCGに
置き換えるのはコストもかかり、俳優たちも努力もあってか、」の部分は、
その後で「CGだけで生身の俳優そっくりの
デジタルレプリカを作成することには、膨大なコストがかかる。」で
説明されるので、省ける気がしました。
2)「企業はブランドイメージ向上のために自社の「顔」として
タレントをCMに採用する。そのタレントがスキャンダルを起こせ
ば企業イメージの悪化につながる。その点、AIタレントは
スキャンダルを起こしにくいため、生身のタレント起用よりリスクが低いと言える。」
・・・説明が少しくどいのでもう少し短く
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メモ終わり。久しぶりの紙の雑誌寄稿でした。ウェブよりももっと高度に構成と言葉選びをしないといけない世界です。編集さんのアシストは的確でとても勉強になります。
この号は俳優とはなんだろうと考える特集で、佐藤健さん、長澤まさみさん、アンソニー・ウォンさんのインタビュー、その他、黒澤明や小津安二郎、成瀬巳喜男などの残した俳優論についてのコラムなどが掲載されています。現役の映画監督の俳優論などもあって読み応えがありますよ。