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岸田政権退陣でエンタメ・コンテンツ行政への影響は?

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8月14日の午前中、岸田首相が次の自民党総裁選に出馬しないことを表明した。事実上の退陣宣言である。


 
2021年から総理を務めたので、3年弱での退陣だった。外交のセンスと支持率の低さが報道される事が多かったのだが、筆者としては、岸田政権の期間中、エンタメ・コンテンツ行政が良くなったなと感じていたので、ここでの退陣は若干残念に思っている。
 
今年、施行予定のフリーランス新法は、岸田首相肝いりの政策だった。コンテンツ業界はフリーランスが多く、不利な立場に立たされやすい。フリーランスの「取引の適正化」と「就業環境の整備」を目指して、フリーランスも正社員と同じような待遇と労働環境を得られるようにという狙いの法律だ。
 
フリーランスも普通の従業員と同じハラスメント対策の保護下に置かねばならないように義務付けたり、取引内容を明示する義務を課したり、期日までの報酬支払義務を作ったりと、フリーランス側からすると結構いい内容である。詳しくはこちら↓
映画・アニメ業界にも影響大 フリーランス新法の勉強会を日本芸能従事者協会が開催 | Branc(ブラン)-Brand New Creativity-
 
また、長いこと日本政府の文化支援は、無駄が多く本当に必要な人材支援に寄与していないと指摘され続けてきたが、岸田首相になって開催されるようになった「新しい資本主義会議」では、かなり現場の意見に即した、まともな意見が集まり(是枝監督や山崎貴監督も出席した回)、具体性があり、有効な手立てを思える案が議論されていた。
政府は今度こそコンテンツ産業の人材支援に向かうか。是枝監督も提言した新しい資本主義実現会議の内容とは | Branc(ブラン)-Brand New Creativity-
 
この日の会議では、例えば、「日本アニメーター・演出協会(JAniCA)と日本動画協会の資料を引用し、アニメ業界の若年層の賃金が低く待遇改善が必要であることの指摘」があったり、「芸能関係のフリーランスの長時間労働の常態化や契約内容の曖昧さでフリーランスが不利な立場に立たされていること」が議論され、公正取引委員会も出席して、連携を図ることが確認されていたりする。
 
岸田首相自身もこのように発言。
「アニメ・映画・音楽・ゲーム・漫画・放送番組といったコンテンツは、我が国の誇るべき財産です。そして、技術進歩によりコンテンツの競争力の源泉は、クリエイター個人に移りつつあります。
 他方で、制作現場の労働環境や賃金の支払といった側面で、クリエイターが安心して持続的に働くことができる環境が未整備です。我が国のクリエイター個人の創造性が最大限発揮される環境を整備する必要があります。
 公正取引委員会の協力の下、契約を適正化するため、実態調査を行い、結果を踏まえて、優越的地位の濫用を防止し、それに反する行為は独占禁止法に抵触するおそれがあることを示す指針の作成を図ります。」(令和6年4月17日 新しい資本主義実現会議 | 総理の一日 | 首相官邸ホームページ
 
こうした議論を踏まえて今年の6月には、日本のコンテンツ産業活性化とクリエイターの労働環境改善のために「コンテンツ産業官民協議会」を設置する方針が固められた。これは、文化庁と経産省に分かれていて、なにかと面倒くさかったコンテンツ行政を一本化するための施策で、長年エンタメ業界が求めてきたけど実現しなかったものだ。
縦割り行政を打破できるか。映画に特化した支援機関の設立に向け一歩前進 | Branc(ブラン)-Brand New Creativity-
 
そして、その下部組織として映画支援に特化した組織も作ることが発表された。構成メンバーは関係省庁と映画関係者のクリエイターからなり、「映画関連のクリエイターが安心して持続的に働ける環境の整備、映画に関する支援制度の在り方、映画の海外展開・発信・映画のロケ地誘致等について具体的な方策の企画立案を行う」という。
 
ちゃんと「アームズ・レングスの原則」も確認しているし、これは本当に日本にもフランスや韓国のような文化支援行政が実現するのでは、と期待しているのだが、ここにきて岸田首相が退陣するということで、これらの文化行政の方向性が次の総理のもとでどうなるか、不透明になってきた。

報道によると、「映画戦略企画委員会」の初会合は9月上旬に開催されるらしい。総裁選は9月20日なので、この会合までは岸田さんはまだ総理なので、これは予定通り開催されるのだろうけど、どこまで固められるのか、きになっている。

とりあえず、「コンテンツ産業官民協議会」と「映画戦略企画委員会」については、完全に制度化するまでは音頭とってほしかったなと思う。これで政権変わってまたイチからやり直しになる可能性もあるだろうし。エンタメ行政については、次期総理もこの岸田路線を踏襲してくれる人になってもらいたい。人材なくして文化の発展はなく、少子化時代を生き延びるには、海外展開が不可欠。実写もアニメも、理にかなった行政の支援が必要なフェーズになっていて、それが実際に実現できるかも、という感じだったので。
 
グローバル・アニメ・チャレンジ」のような良い政策も動き出しているし、この流れは止まってほしくないのだけれど。

 
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