野木亜紀子脚本、メイン演出塚原あゆ子、プロデューサー新井順子のトリオ作の最新作『海に眠るダイヤモンド』を見ている。軍艦島こと端島を舞台にした、経済成長期の熱い時代の物語と、2018年、東京のホスト玲央(神木隆之介)と謎の金持ちの女性・いづみ(宮本信子)の出会いが交互に描かれる構成の物語だ。端島に象徴される労働者と家族の苦闘の歴史と現代の日本をつなげて、歴史の連続性を思い出そう、という意図があるのかなと思って、基本的に楽しく見ている。
このドラマが何を伝えようとしているのか、その中心が現代と過去の物語のどちらにあるのか、やや方向性が掴みにくい構成になっているが、役者の芝居もいいし、日本のテレビドラマとしてはプロダクションデザインのバリューも高く、見ごたえは充分ある。適度な謎が視聴者の視聴意欲を掻き立てているだろうし、7話の時点では面白いドラマだなと感じている。
いづみの正体で引っ張る序盤、終盤にも残される謎
第一話の冒頭、燃え盛る夜の軍艦島から、赤ん坊を抱いた女性が1人、小舟で脱出する。それから現代の新宿でホストをしている玲央といづみの出会いが描かれる。借金やらなにやら色々あって首が回らない玲央は、いづみに助けてもらおうとしているうちに、一族経営しているいづみの会社の相続争いにまきこまれてゆく。同時に、玲央はいづみの昔の大事な人にそっくりらしい。そして、彼女が端島出身であることが示される。
端島のパートは1958年から始まる。大学を卒業した荒木鉄平(神木隆之介)が端島に戻ってくる。中心になるのは、鉄平とその幼馴染の賢将(清水尋也)、朝子(杉咲花)、百合子(土屋太鳳)、そしてふらりと端島にやってくるリナ(池田エライザ)の恋愛模様と、鉄平一家の家族のドラマ、そして炭鉱の島の行く末だ。
端島は半人工島で、炭鉱員の家族が暮らす場所。東京よりも人口が密集していたそうで、最盛期には5000人を超える人間が鉄筋の集合住宅に所せましを暮らしていたと語られる。狭い中の狭い人間関係で、一企業の所有地であり、共同体として非常にユニークである。
物語の序盤、いづみはどうやら鉄平を知っているようで、瓜二つの玲央を気にかけていること、そして、朝子、百合子、リナの3人の中の誰からしいということが示唆される。その謎が序盤を引っぱる原動力となる。
第5話でその正体が明かされる(ネタバレはこの記事の最後に入れる)。玲央はどうして鉄平に似ているのか、いづみが長崎から遠く離れた東京で社長となっているのか、端島の人々はどうなったのかなど、色々な謎が残されている。第一話で赤ん坊を抱いていたのはリナで、リナは鉄平の兄・進平との間に男の子を授かった。この子供は玲央と関係あるのかなどが、視聴者にとって気になるポイントになっている。序盤と後半で考察要素が移り変わっていく構成にしているわけだ。
7話では端島の火災事故が描かれ、コミュニティ崩壊の危機が描かれた。史実でも起きた火災であり、これを境に端島の石炭がとれる量は減り、時代が石油中心に移行して衰退していく。後半はそんな衰退とともに何が描かれるのだろうか。
本作の主軸はどこにあるのか、いささかわかりにくい部分がある。現代の新宿のホストの物語と端島を並行して描く意図は何か。単純に血縁関係があるかどうかという、物語上のつながりよりも、その作劇の意図がまだ掴み切れない。日本の近現代史を振り返り、今の我々の生活は過去の苦闘によって成り立っているということかもしれない。
ただ現状、端島パートの熱さの魅力に、現代パートがやや追いつけていない印象ではある。それも後半に向けて盛り上がってくるかもしれないが。
インタビューでは、塚原監督が『タイタニック』のローズの過去語りのような構成にできないかと提案しているとのことなので、今を起点に昔を振り返るということだけなのかもしれない。(参考:脚本・野木亜紀子氏×監督・塚原あゆ子が明かす、制作のきっかけ&キャスティング秘話。日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』インタビュー|TBSテレビ)
このドラマは生活の匂いが描けている
まあ、主軸がどこにあるのか掴み切れないけれども、面白くないわけではない。むしろ面白い。というのも、この作品あは60年代前後の端島の生活の香りがきちんと漂っているからだ。
生活感の描写は、日本のドラマにおいてしばしば弱点となっている。とりわけ現代が舞台でないものであればなおさらだ。しかし、このドラマは結構お金をかけたオープンセットのおかげか、そこがしっかりしていて良い。まず、現代の僕らは端島の生活が珍しいわけで、あのような集合住宅での濃密な暮らしぶりを観れるだけで面白い。その人間模様は、現代にはない熱さや独特の匂いがあり、それはノスタルジーでもあるわけだが、それを序盤に存分に視聴者に見せておいて後半からは衰退を描くという構成は、上手い。ハマっている視聴者はすっかり端島の住人気分になるだろうし、いつまでもこの熱い生活を見ていたいと思うだろうから。特に國村隼演じるお父さんを始めとした炭鉱員たちの佇まいが真に迫っていて、そこがウソっぽくないのがすごく効いている。朝子の食堂も雰囲気がいい。
むしろ、この人々の生活ぶりを見せたくてこのドラマを作ったのかなと思えるくらいだ。現代パートのいづみは事業で成功して、いい家に暮らしているのだけど、本当に豊かな生活とは何か、みたいな対比関係にもなっているようにも見える。
この端島のパートには野木さんらしい主題はいくつも見えてくる。組織に翻弄される個人とか、女性の苦境と連帯とか、原爆を含めた長崎の歴史であるとか、意義深いものがたくさん描かれている。
野木さん自身はインタビューで、「じゃあ現代の私たちはどうやって生きていきましょうか、ということが見えればいいかなと。ただ今回はテーマ性よりも、日曜劇場らしい家族、友情、人生の描写、そこを生きた人々の物語をどう見せていくかに重心を置いています」と語っているので、シンプルに生きざまを見せたいということかもしれない(『海に眠るダイヤモンド』脚本家・野木亜紀子 × 監督・塚原あゆ子の頭の中 | 【GINZA】東京発信の最新ファッション&カルチャー情報)。
衰退をどう描くか
端島は高度経済成長の日本を象徴するような、そんな描かれ方をしているようにも思う。かなり当時は栄えていたようだが、盛者必衰というか、今も衰退している現代日本とも重ねているのかもしれない。しかし滅んでゆく中でも人は生き続ける。7話の火災は63年か64年くらいだろうから、74年の閉山まではあと10年くらいある。後半は、端島の歴史のどの辺りまで描くことになるのだろう。一話の冒頭は確か、1965年と出ていたような気がするので、閉山まで描かず、本土で話が展開していくのかもしれないが。
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