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ヌーヴェルヴァーグから歌舞伎まで!チャップリンの広範な影響を読み解く『チャップリンとアヴァンギャルド』

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日本のチャップリン研究者、大野裕之さんの『チャップリンとアヴァンギャルド』は、これまであまりかtられたことのない視点から、喜劇王チャップリンの功績について記した一冊だ。

大野さんのチャップリン関連の本はとにかく面白いものが多い。拙著『映像表現革命時代の映画論』では、『ディズニーとチャップリン エンタメビジネスを生んだ巨人』から引用して、サイレント映画の表現テクニックとアニメーションの近接性について書いた。大野さんの本がなければ書けない内容だったなと思う。

その他、『チャップリンとヒトラー』も面白い。『独裁者』は有名であるが、チャップリンがあの映画を作りに至る過程と国際政治状況を見事に紐解いた一冊だった。

さて、『チャップリンとアヴァンギャルド』は、映画のみならず前衛芸術や音楽、舞踏など、様々な分野にチャップリンがどのような影響を与え、後進が受け継いでいったのかについて分析している。映画関連についてもヌーヴァルヴァーグやSFといったものへの影響などについても記していて、かなり広範にわたってチャップリンが与えた影響についてカバーしている。アニメーションへの影響についても書いているが、これについては『ディズニーとチャップリン』の方が詳しい。

日本との関わりについても「チャップリンと歌舞伎」で触れている。なんとチャップリンの『街の灯』を歌舞伎に翻案した『蝙蝠の安さん』という演目があるらしい。舞台設定は江戸時代の両国だったらしい、掛けボクシングのシーンは女相撲に変更されているとのこと。

蝙蝠の安さんというのは、『与話情浮名横櫛』という歌舞伎作品にでてくる「蝙蝠安」からきてるらしい。主人公にゆすりやたかりを教えるキャラクターだそうで、「ルンペンで偽悪家で弱つ腰で、お人よし」らしい(P240)。

しかも、この歌舞伎の演目、『街の灯』のワールドプレミアの半年後に公演されたらしい。えらいスピードだ。『町の灯』は1931年の作品だが、日本での初公開は1934年だったと思う、国内公開よりも先んじて歌舞伎になっていたわけだ。

また、本書を読むとチャップリンは、トーキーのような新たな技術についてはかなり早い段階で注目していたことがわかる。これも世間のイメージとは異なる。時代遅れのサイレントに固執したというのは、あまり正確ではないのだと本書は主張している点も興味深いところだ。

大野さんは、とにかくよく調べておられる。調査の量と質に脱帽する。そして、かなりの量、チャップリンについて書いていて、もちろん、大野さん以外の多くの書き手によって掘り下げられているはずなので、まだ新しい視点がチャップリンのすごさがわかる一冊だ。

 
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