NHKの大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』は、いよいよ主人公の蔦屋重三郎(横浜流星)が、本作りに本格的に挑むエピソードとなった。
吉原細見は高評価だが、客足は戻らず
2話で、吉原のガイドブックである吉原細見をリニューアルした重三郎は、それを女郎屋の親父連中に見せる。概ね好評だが、するが屋の親父(高橋克実)だけは気に入らず、勝手なことすんな、てめえはいつから本屋になったんだと重三郎を殴りつける。
それでも細見は配布され、それなりに売れているのだが、吉原に客は戻ってこない。平賀源内の序の文は気になるから買ってみようかと購入者は多いが、それが客足には繋がらなかった。
そこで、重三郎がとった次なる策が、入銀本の製作だ。入銀本とは、本の出版を希望する人が事前に支払う仕組みで、予約販売やクラウドファンドに近い制度。出版費用を出資者から募り、出資者は出来た本を受け取る権利がある。重三郎は、長谷川平蔵をだまくらかして、50両をせしめて、花魁たちに入銀本の企画の噂を流布することで、お金を集める。
そして、有名な浮世絵師、北尾重政に本の挿入画を描いてもらおうと頼み込み、北尾とともに、花魁たちを花に見立てる案を思いつく。そして、完成した本は吉原の馴染みになることでしか手に入らないようにする、市中の店にサンプルを配って宣伝した。
「一目千本」は国書データベースで見られる。
そうして半月後には、吉原は大盛況となった。
一方、田沼意次(渡辺謙)サイドの物語も動き出す。田安賢丸の田沼家への養子縁組が画策される。こちらは政変の雰囲気が徐々に漂い、不穏な空気が流れていく。
入銀本「一目千本」とは
これは、作中でも語られているが、一般の書店で流通させなかったことに意味がある。これは吉原の馴染みにならないと手に入らない。つまり、これを持っているということは、吉原で遊びなれた粋な男、という感じで箔がつくわけだ。本の価値をいかにしてあげ、さらに吉原に客足を戻すのか、非常によく練られたアイディアだ。
この入銀本は、一般の本屋では手に入らないという点で、コミケや文学フリマで作られる同人誌のようなものだと思った。本屋の苦境の一方で、同人マーケットの盛況が語られる昨今だが、それはそこでしか手に入らないという付加価値が人を呼び寄せているのだ。重三郎のアイディアはこれに近い。
馴染みになれない大衆も興味津津になったところで、花の絵だけを一般向けに販売するという二次販売的なアイディアもこの後、展開するらしいのだが、それは次回で描かれるかもしれない。