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「臨界世界 -ON THE EDGE- 中国のハゲタカたち」不動産バブル崩壊後の中国経済


NHKのドキュメンタリーシリーズ「臨界世界 -ON THE EDGE-」は、世界各地の社会・経済の臨界点に迫る意欲的な作品である。シリーズの第一回として放送された「中国のハゲタカたち」は、中国の中古品市場を題材に、経済低迷の中で新たなビジネスを模索する人々の姿を追っている。

番組は、不動産バブルの崩壊と経済成長の鈍化がもたらした現実を映し出す。深圳を舞台に、倒産した店舗や廃業した飲食店の備品を買い取り、転売する業者の姿が描かれる。わずか半年で破綻したレストランの厨房設備が買い叩かれる様子は、中国経済の厳しい現状を象徴している。昨年だけで約300万軒の飲食店が閉店したという統計が番組内で紹介され、中古品市場は急成長を遂げ、その規模は25兆円にも上る。

番組はまた、コロナ禍で建設された隔離施設が解体され、その設備が売買される様子にも密着する。ここでは、27歳の青年が給湯器を大量に仕入れ、わずか2日で8000台を売りさばく姿が紹介された。かつてマットレス製造業を営んでいた彼は、不動産市場の崩壊により事業が立ち行かなくなり、中古品ビジネスに転向したという。経済環境の変化に対応するため、新たなビジネスモデルを模索する姿が浮かび上がる。

番組の後半では、中古品市場の大物として知られる「ホウ」という人物が登場する。ホウは専門機械を取り扱う業界のトップであり、SNSで80万人のフォロワーを持つインフルエンサーでもある。彼の事業は、中国政府の経済政策とも密接に関わる。河南省の内陸部で中古機械の売買を展開するホウは、政府の地方活性化策に乗じた事業展開を行っている。しかし、経済政策の矛盾も見えてくる。地方政府は企業誘致のための優遇措置を掲げながらも、実際には高い税金を課し、企業の経営を圧迫している。ホウ自身も政府の理不尽な要求に直面しながら、それを巧みにかわしつつ事業を継続している。

番組の終盤では、中国国内の消費低迷や米中貿易摩擦の影響を受け、ホウが事業の方向転換を図る様子が描かれる。彼は日本に拠点を構え、中古品の買取・販売を開始した。日本の一軒家を拠点にネット通販を展開し、中国のフォロワー向けに商品を販売するという迅速な適応力が印象的である。彼は「中国は今、自信を失っているが、いずれ復活する」と語り、未来を見据えた戦略を練っている。

 
ホウは強烈な性格をしていた。強気で剛腕、しかし中国人に対して辛辣な面があり、もっと謙虚になるべきだとか、外国企業をもっと大切にすべきとSNSで発言して炎上したりもしている。17歳で深圳に出稼ぎに行って家畜のように扱われたという経験も彼の人生観に影響を与えていそうだ。

中国ビジネスは日本からは見通し難いものがあるが、このような中古品ビジネスの暗躍とそれのトーンダウン、そしてトランプ大統領の貿易戦争と未来は不透明になっている。今後の世界情勢にも関わりそうな、中国経済の足元の一端が垣間見えるドキュメンタリーだった。

 
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