『東京サラダボウル』第6話「海と警察官」は、鴻田麻里(奈緒)の過去と現在が交錯し、彼女の価値観や生き方の背景を深く掘り下げるエピソードとなった。同時に、彼女の過去がアリキーノの最愛の人ともつながりがあったことが判明した。
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物語は2005年の福岡、小学生時代の鴻田が、コリアンタウンの食堂で過ごした記憶から始まる。韓国語に興味を持ち、食堂の娘スヒョンを姉のように慕っていた彼女の姿が描かれる。鴻田にとって、スヒョンとの思い出はかけがえのないものであり、彼女のことを「オンニ(お姉ちゃん)」と呼んでいた。
鴻田はスヒョンから韓国語と日本語にはそっくりな単語があることを教わっていた。とんかつはとんかっす、ラーメンはらーみょん、納豆はなっと、約束はやくそ。少しだけ違うけど、すごく似ている。外国で暮らしているとちょっとでも共通のものがあると嬉しくなるんだろうなと鴻田は言う。例えば、先週のベトナム人ティエンが進という意味だったように。
有木野(松田龍平)とともに訪れた韓国料理店で、鴻田は過去の記憶を語り出す。かつてスヒョンが美術の道を志しながらも、家族の事情によって困難を抱えていたこと、そしてその後の悲劇。スヒョンの父が逮捕され、日本社会の冷たい視線が彼女に注がれる中、二人離れ離れになってしまった。
有木野は思い切って鴻田に警察官になった動機を尋ねた。それは8年前、通り魔事件に遭遇したことがきっかけだったという。ナイフを持った通り魔から、母子を助けようとしたが身体が動けなくなってしまった鴻田は、ある警官に助けられ「よく助けようと思ったね、誰にでもできることじゃない」と言われたことで、警官を目指したのだという。
その警官とは、有木野の元恋人の織田覚(中村蒼)だった。今はもう帰らぬ人となった彼のことを思い出し、有木野は急に帰ってしまう。
一方、戸籍売買事件に関わっている「ボランティア」と呼ばれる男(絃瀬聡一)を追う杓野(中川大輔)や、警察内部の動きも並行して描かれる。この件の捜査で阿川博也(三上博史)が戻って来るかもしれないと八柳隆太(阿部進之介)は言う。阿川は織田が命を絶ったきっかけとなった「誤訳事件」に関与している。最後に不敵な存在感で歌舞伎町を歩く阿川の姿でこのエピソードは幕を閉じる。
今回は、在日韓国人の存在が描かれた。スヒョンの父親は密輸に手を染めていた。だが、それはスヒョンの夢である美術の大学に通わせるためにお金が必要だったからだ。スヒョン一家は祖父の代で釜山から福岡にやってきたらしい。そういう歴史を持った人は、福岡に大勢いるだろう。
鴻田の母親の台詞がとても印象的な回だった。まだ幼い鴻田に「誰とでも繋がれるすごい力を持っている」と褒めていた。彼女が今、刑事として外国人に親身に関わっている原点が垣間見える。
この作品は、昨今外国出身者が増加していることを背景にしている。だが、日本社会には、実際には昔から海外出身の人々が暮らしていた。在日韓国人はその代表的な存在である。近年の移住者や労働者だけでなく、日本社会における共生の歴史にもスポットを当てることを忘れていない制作陣の姿勢は素晴らしいと思う。