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「臨界世界 ON THE EDGE」理不尽な“ゲーム”に命を握られる難民たちの過酷な実態を密着取材


NHKスペシャルのドキュメンタリー『臨界世界 ON THE EDGE』2回目の放送は、難民問題だ。「生か死か 難民たちの“ゲーム”」と第された回の視聴メモを残しておく。非常に強烈な内容だった。本当に今、世界は理不尽になっているのだと思い知らされる。

ポーランドとベラルーシの国境。森の中には血痕が残り、武装した軍人が巡回している。狂気の森と呼ばれるその場所では、エチオピア、シリア、ソマリアなどから逃れてきた難民たちが命をかけた「ゲーム」に挑んでいる。彼らが言う「ゲーム」とは、不法な国境越えのことを指す。彼らは祖国の戦争や弾圧から逃れ、自由と安全を求めているにもかかわらず、過酷な試練を強いられている。

難民たちは逃亡の資金を調達するために借金を抱え、その資金を運び屋に支払う。運び屋は彼らを駒のように扱い、高額な料金を要求するばかりか、時に難民を裏切り、さらなる危険へと追いやる。運び屋の幹部は「ゲームという呼び方は自分が考えた。20年間、一人も死なせたことはない」と語るが、現実には多くの難民が行方不明になり、命を落としている。

難民の亡命ルーツにはいくつかの種類があるようだ。番組ではバルカンルートと呼ばれる陸路が紹介される。イランからトルコに入り、そこからバルカン半島に向かうルートだ。そのバルカンルートの検問が強化される中、新たにロシアルートが登場するが、そこでは難民がウクライナ戦争に動員されるという信じがたい証言も出てくる。

番組では、アフガニスタンから逃れた18歳のアブドゥル・ラシードの旅を追う。彼の兄はすでにドイツに亡命しており、弟のために運び屋を手配する。しかし、アブドゥルはトルコ国境で騙され、山に置き去りにされたうえに山賊に襲われる。手の骨を折られながらも、彼は再び祖国へ戻る決断をする。しかし、帰国後に大地震が発生し、一ヶ月以上もテント暮らしを強いられる。そんな中、兄は新たなルートを模索し、ロシアルートに挑戦しようとするが、そこでは難民がロシア政府に拘束され、ウクライナ戦争へと送り込まれる事態が起きていることを知る。

こうした運び屋たちは、SNSで募集をかけている。命がかかった難民たちにこのルートは安全だとアピールしているのだが、実態とかけ離れていることも多いようだ。ロシアルートは安全だと運び屋は言うが、アブドゥルの兄が独自に調べて、ロシアルートを使った難民の一人を話したところ、ベラルーシとポーランドの国境警備がかなり厳重で非常に危険だという。ソマリア人の彼は、ロシアで軟禁状態にされており、仲間はウクライナ戦争に駆り出されたという。難民を戦争に送り込むとは非人道的にもほどがある。しかし、それでも他に手段がないため、アブドゥルの兄はロシアルートの運び屋に、190万円近くを支払った。

ポーランドのNGOは、森で傷ついた難民を救助しようと奔走するが、彼らの活動には限界がある。ポーランド政府はウクライナ難民の受け入れを優先し、それ以外の難民には厳しい姿勢を取るようになっている。国境で助けを求めるイラン人女性や、血まみれの足で歩くエチオピア人の姿が映し出される。しかし、ポーランド軍は難民を押し戻し、彼らの訴えには耳を貸さない。NGOの女性は「人道主義は幻想なのか」と嘆く。

ポーランドには、過去3年でウクライナから100万人ほどの難民が流入し、政府はこれ以上の難民受け入れに消極的だという。有無を言わさず送り返される難民も出てきているようだ。国境越えで命を落とす難民も多い。NGOの女性たちは、取材陣を難民たちの墓に案内する。

NGOの女性たちは、助けを求める難民たちを探して国境近くの森の中を、銃を持った軍人たちと競争するように走り回る。国境警備隊よりも先に難民を見つけないと送り返されてしまうからだ。森の中には血痕も残っている。なんとか、エチオピアから逃れてきた男性を一人救出することに成功した。

一方、ドイツでは移民排斥の動きが強まっている。難民の兄は街中で中指を立てられ、ネオナチの旗が揺れる大規模集会が開催されている。EUにたどり着いても、そこに安息の地はない。ドイツで職を得ることができない難民の中には、ついに運び屋となる決断を下す者もいる。生きるために逃れたはずが、今度は自分が他の難民を危険に晒す側に回らざるを得なくなる。この連鎖する理不尽は、まるで終わりのない悪夢のようだ。

アブドゥルの兄が最後の望みを託したロシアルートは、さらに悪化していた。運び屋が用意したのは、なんとコートジボワール行きのチケット。事情を問い詰めると、運び屋は「ビザの値段が高騰したから安いルートを探し」と開き直る。ニュージーランド行きを勧められるが、それが本当に安全な道なのかは誰にも分からない。アブドゥルは、自分が運び屋たちのゲームのコマでしかないことを痛感する。

番組は、トランプ元大統領のガザに関する発言を挿入しながら、「世界は難民に手を差し伸べることを忘れてしまったのか」と問いかける。人道支援の理念は崩れ去り、難民は追い詰められるばかり。戦争、貧困、迫害から逃れるために命を賭ける人々が、国際社会の無関心と冷酷な現実の前に翻弄される姿が描かれている。

 
難民問題について理解を深めるためには、この本がいいと思う。難民が生まれてしまうメカニズムの根本と、国益や人道主義など、様々な視点で難民問題を解き明かす良書だ。

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