池袋の新文芸坐にて開催された、『化け猫あんずちゃん』と『きみの色』二本立て上映と山田尚子監督と久野遥子監督のトークショーに行ってきたので、忘れないうちに内容を少しメモしておく。
映画は昨年見て数ヶ月ぶりの鑑賞。どっちも3回目の鑑賞だったと思う。
『化け猫あんずちゃん』は、ロトスコープ作品。山下敦弘監督の間合いとテンポで進む作品なので、一般的な商業アニメよりも長回しが多い。作画としては本当に大変なことをやってるんだけど、技術的すごさが前に出てこない良さがある。山下監督の演出の「のんびり感」みたいなのがそうさせてるとこもあると思う。
『きみの色』は本当に画面を構成しているものが美しいもので満たされている作品だ。二本続けて見ると、わりときらびやかな画面が似てるかも、という気分になる。そして、トークショーでも行っていたが、『あんずちゃん』は本当にたくさん歩いている作品で、『きみの色』とは人物の歩き描写が全然違うことに気づいた。『あんずちゃん』は接地面見えまくっていて大変という話が出てきたのだ。
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山田尚子監督は『化け猫あんずちゃん』をどう見たか?
トークショーでは、山田監督の『あんずちゃん』の印象から入った。ロトスコープ作品というイメージはリアルで生々しい動きを想像しがちだけど、技術的なことを忘れて見入ってしまった、すごいことしてるのにそのことを忘れて楽しく見れてしまうのがすごい、とのこと。
久野監督は1カットが通常のアニメ作品より長いので、本当に1カットで力尽きるアニメーターさんもいたから人海戦術で作ることになったと語っていた。作監も大変だったようだ。いくつかのシーンでは歩きの芝居を短くしたり工夫はしているが、それでも普通のアニメ作品よりも膨大に歩きの芝居があるので、かなり大変だったそうだ。
山田監督も接地面は歩きの芝居では見せにくいのに、この映画はどんどん接地面が出てきて、すごいと思ったらしい。
『あんずちゃん』は山下監督による実写映像があるので、絵コンテはほとんど描いていないという。日本の実写映画だと、絵コンテは描かないことは結構普通にあって、現場で芝居作ってそれで撮影監督と相談してカット割るということもある。山下監督の独特の間合いは、コンテで決めきってしまうと、それはそれで失われるかもしれないなと思った。
山田監督は『あんずちゃん』についておじさんがみんなかわいいと言う。また主人公のかりんちゃんのキャラの立たせ方が良いと思ったそうだ。演じた五藤希愛さんは、山下監督が『1秒先の彼』で起用したこともあって、その流れで山下監督がオーディションに呼んだらしい。慣れもあってか、オーディション時に全く緊張してなかったことが良かったらしい。
久野遥子監督は『きみの色』をどう見たか?
久野監督が今度は『きみの色』の感想を。シンプルなきれいさに惹かれ、80年代の少女漫画のようだと感じたらしい。作画について、線が線としてあるのが、珍しいという。
小黒さんから、大きな苦難や葛藤を描かなくても映画は作れるという意思で作っているのかとの問いかけに、山田監督はそう信じたい、題材によるし、そういう作品を最終ゴールにしているわけじゃないので、起承転結起伏のある作品にも挑戦したいと語った。オリジナル映画だったことについて、昨今、強い言葉、バズる言葉が良いとされる風潮だけど、そういう感覚じゃなく、能動的に映画を楽しむことをしてほしくて、こういう作品を作ったとのこと。
また、小島崇史さんについて山田監督が驚異の仕事ぶりだと絶賛していた。
小黒さんがここで、アニメとアニメーションの違いについて語った。久野監督はアニメーションの領域で活躍してきた人と紹介する。
アニメとアニメーションの違いは、筆者の『映像革命時代の映画論』でも書いたが、「アニメ」は日本の商業アニメ作品のようなスタイルを指す言葉で、アニメーションはストップモーションや切り紙や3DCGなど様々な手法によって作られた映像全体を指す。自分の本では以下のように書いた。
日本語で「アニメ」は、「アニメーション」の省略形であるが、諸外国では「アニメ(anime)」は独自の美学を発展させた日本発祥のアニメーションのいちジャンルと見なされている。日本スタイルの作品とアニメーション全体を区別するため、本書では諸外国の用法にならい、日本の商業アニメス
タイルの作品を「アニメ」、コマ撮りによって作られた作品の総称を「アニメーション」と記述することにする。海外の用法が正しいというわけではなく、これは区別して語るために便利だという理由による。
久野監督は、アニメーションは動きそのものに価値を見出して作るものと考えているという、動きの尊さ自体を追求するのがアニメーションだという。そして、山田監督も技法としてのアニメーションにあこがれて業界入りしたので、仕事として求められることはきちんとやりつつ、アニメーションをやっているという意思表示をしていると語っていた。
久野監督は『あんずちゃん』の手応えを聞かれて、初長編で大変だった、こもって作業する時とたくさんの人に指示を出す瞬間をいろいろな瞬間があることを実感したそうだ。
山田監督は、監督作業で絵コンテの時間が一番楽しいという。理由は一人で籠もれるからだそうだ。しゃべるのが苦手でこの仕事をしているところもあるので、天職だと思っているとか。
久野監督は映画に憧れあったので、今後も短編もやりつつ長編もやりたいと語った。今回は2人で監督だったが、1人で監督の作品も作ってみたいそうだ。山田監督もやりたいことがたくさんあるどうで、寡作にはならずに多くの仕事をしていきたいという。
とてもおもしろかったです。この組み合わせのトークショーは貴重ですね。
それと、3月22日に『小林さんちのメイドラゴン』1期のオールナイト上映をやるらしい。
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