試写にて見た作品。
犬好きの方には、関心の高い題材だろうと思う。しかし、犬好きの方々にオススメするのも躊躇する気持ちもある。犬を家族同然に愛する方々にとっては非常につらい映像もあるからだ。同時にその映像はこの世界のまぎれもない現実でもあるので、好きだからこそ目をそらしてはいけないと考える方もいるだろう。
この映画は、山田あかね監督が、ウクライナの戦場で犬たちがどのような状況になっているのかをその目で確かめ、カメラに収めるために3ねんに渡り現地に赴き取材した記録だ。現地の動物愛護団体の懸命の活動や、ボランティアで協力する人々など多くの人々が犬や猫といったペットを助けるために危険な戦場で活動している実態を写している。
山田監督はこれまでも、東日本大震災で置き去りにされた動物たちを助ける人々を追いかけたドキュメンタリー映画『犬に名前をつける日』などを制作している。ウクライナ戦争取材時も、度々その時のことを思い出している様子が映像から伺える。
冒頭、現地の団体が撮影した悲痛な映像が写される。とある犬用のシェルターで犬たちの遺体が延々と横たわる映像だ。放置されたそのシェルターでは犬たちが餓死し、共食いをしたと思しき状態も確認できるという。そのような映像がつかわれていることを最初に注意しておいてほしい。
映画は、このシェルターで何が起きたのかを中心に組み立てられ、そこからペットたちを保護するために活動する人々の活動を多岐にわたって追いかけている。そのシェルターでは485匹の犬が収容されていたが、222匹が戦争で亡くなった。残りの犬を救ったのは動物愛護団体「フボスタタ・バンダ」のメンバー。生き残った犬たちは窓から流れ落ちる雨水を舐めたり、排泄物を食べたりして生き残ったと考えられるという。
こうした状況を生み出したシェルターの所長は責任を取らされ解雇されたが、実態はロシア軍に道を封鎖され、だれも立ち入ることができなくなっていたのだという。
しかし、映画は絶望的な状況ばかりを写しているわけではない。生き残った犬たちが元気になった姿も捉えており、人と犬が絆を育む様子も活写される。特に元イギリス兵の、戦場でPTSDを発症した経験のあるトムのエピソードは印象深い。彼はドッグセラピーによってPTSDを克服してそうで、自分が救われた経験から、今度は戦場に赴きペットたちの救出活動を行っている。また、戦場で負傷した兵士たち向けのアニマルセラピーのプログラムを開いていることも紹介されていた。
その彼は、ウクライナから移動してパレスチナのガザで活動しているという。戦場での経験を活かして、最前線で動物の救出活動を行っている。
戦場では弱い存在から犠牲になっていく。犬や猫を救えないなら、それは人間にとってもギリギリの環境だ。動物の命を考えることは人の生きる環境、ひいては人の命を考えることにもつながる。トムのように動物に人生を救われた人もいる。戦争を考えるために、「別の」視点を与えてくれる作品と言える。