国立映画アーカイブは2025年2月25日、「映像でみる明治の日本」ウェブサイトにおいて、新たにリュミエール社が撮影した明治時代の日本を記録した29作品を公開した。
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本サイトは、日本映画が1899(明治32)年に初めて公開されてから120年を迎えたことを記念し、2019年に開設された。これまで、現存する最古の日本映画『紅葉狩』を含む6本の明治期の日本映画を公開してきたが、今回の追加により、より多角的な視点から明治時代の日本を体験できる内容となった。
今回公開された29作品は、1960年にフランスの文化担当大臣で作家のアンドレ・マルローが来日した際に東京国立近代美術館へ寄贈したフィルムに基づく。リュミエール社は、1895年にシネマトグラフを発表し、映画史に名を刻んだ企業である。同社は技師を世界各地に派遣し、現地の風景や出来事を撮影させることで作品目録を充実させた。日本での撮影は失敗したとも伝えられていたが、マルローがもたらしたフィルムによって、その実態が明らかになった。
これらの作品は、1897(明治30)年から1899(明治32)年にかけて、東京、京都、北海道などで撮影された。街の雑踏や農村の風景、踊りや芝居の一場面、鉄道や鉄道馬車など、多彩な題材が収められており、当時の貴重な歴史資料であると同時に、映画が新しいメディアであった時代の驚きと喜びを伝える映画史の遺産でもある。
主な公開作品
『列車の到着』:名古屋駅で撮影された可能性のある作品。鉄道は明治という新しい時代を象徴する交通機関だった。有名なリュミエール社作品『ラ・シオタ駅に到着する列車』を想起させる列車の到着と乗降客の様子は、シネマトグラフの定番の題材だった。
『家族の食事』:食事というよりはお茶を楽しむ様子が映される。右端の男性は、染色事業で成功した実業家の稲畑勝太郎で、リュミエール兄弟の兄オーギュストとはリヨン留学時代の友人だった。社用で渡仏した際にシネマトグラフの日本での興行を託され、ひとりの技師を連れて帰国した。
『日本の踊り子』:京都で撮影された可能性のある作品。4人の踊り子による傘を使った華やかな踊りが映し出されている。
『日本の俳優:剣による戦い』:歌舞伎の『慶安太平記』の一場面と考えられる作品。捕り手たちに囲まれた丸橋忠弥の立ち廻りが見事に決まったと思ったら…。映画初期ならではのちょっとしたアクシデントが微笑ましい1本。
『田に水を送る水車』:褌姿になった男性が水車に乗って足で水車を回し、刈取りの終わった田に水を送る。リュミエール社の技師が東京近郊の農村で撮影し、日本で現像した可能性のある作品。
『東京の通り II』:現在の銀座4丁目付近の光景で、洋風の建物が並ぶガス燈のある通りを鉄道馬車が走り抜け、様々な人々が行き交う。画面左の中ほどに見える「HATTORI」の看板は服部時計店のものである。
公式サイト:映像でみる明治の日本