ベトナム戦争を題材とした数々の名作で知られるティム・オブライエンが、20年ぶりに長編小説を発表する。『虚言の国 アメリカ・ファンタスティカ』(村上春樹 訳)が、2025年2月28日にハーパーコリンズ・ジャパンから刊行される。
オブライエンは、全米図書賞を受賞した『カチアートを追跡して』や、ピュリッツァー賞候補となった『本当の戦争の話をしよう』などで知られる作家だ。新作では、フェイクニュースが横行する現代アメリカを舞台に、筋金入りの嘘つきが繰り広げるロードノベルが展開される。犯罪小説の要素を持ちながら、現代社会の混沌を映し出す意欲作となっている。
翻訳を担当するのは、『本当の戦争の話をしよう』『ニュークリア・エイジ』など、オブライエン作品の翻訳を手がけてきた村上春樹。オブライエンと長年にわたる関係を持つ村上が、本作の全訳を担当する。
物語の主人公は、かつては一流のジャーナリストだったが、ある事情によりフェイクニュースの王へと転落したボイドという中年男。彼はカリフォルニアの田舎町でデパートの店長として平凡な日々を送っていたが、突如として銀行強盗に手を染め、窓口係のアンジーを人質に取り、全米を横断する逃避行へと向かう。旅の途中、彼らの行く手には、大富豪、悪徳警官、美人妻、殺人者といった個性的な人物が現れ、嘘と混乱に満ちた物語が展開される。
本作はアメリカ国内でも高い評価を受けており、Entertainment Weeklyは「オブライエンは『今』を読み解く地図のように、アメリカの新しい肖像を描き出している」と評している。また、Kirkusは「銀行強盗をきっかけに、ペテンがはびこる国を風刺たっぷりに駆け巡る鮮烈な叙事詩」と絶賛。Boston Globeは「この毒された時代精神を映し出すひび割れた鏡のような作品だ」と評価している。
著者のティム・オブライエンは1973年に『僕が戦場で死んだら』でデビューし、78年には『カチアートを追跡して』で全米図書賞を受賞。その後も『本当の戦争の話をしよう』『失踪』などの作品で高い評価を受けてきた。20年の沈黙を破り、現代アメリカを鋭く描いた本作は、彼の新たな代表作となるかもしれない。
『虚言の国 アメリカ・ファンタスティカ』は、四六判ハードカバーで624ページ。定価は3360円(税込)で、2025年2月28日に発売される。
あらすじ
ある理由で一流ジャーナリストからフェイクニュースの王に転落した中年男ボイド。カリフォルニアの田舎町でデパートの店長をしている彼は、地元銀行の窓口係アンジーに銃をつきつけ、奪った8万1千ドルと彼女を連れ、逃避行に出る。仕切り屋で喋り通しのアンジーに閉口しつつアメリカを縦断するボイドと、彼をとりまく大富豪、悪徳警官、美人妻、殺人者——追う者追われる者が入り乱れ、嘘と疫病に乗って全米を疾走するが……。