二期目のトランプ政権がDEI施策への過激な攻撃を強めている中、ハリウッド各社もDEI施策を見直す動きが出てきている。ハリウッド・リポーターがこうした動きを懸念するコラムを掲載している。コラムはハリウッドに多様性は本当に根付いていたのかと疑問を投げかけ、アファーマティブ・アクションの違憲判決など、社会の動きと絡めて紹介している。
ハリウッドから消えゆくDEI──本当に根付いていたのか?
ドナルド・トランプ前大統領がダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)の方針を厳しく取り締まる中、ハリウッドのスタジオ各社は岐路に立たされている。そもそもDEIはどれほど有効だったのかという疑問も浮上している。
2017年、トランプ氏が「アメリカ・ファースト」を掲げて大統領に就任した際、ハリウッドは反発し、アカデミー賞も多様性を称えた。ウォーレン・ベイティは作品賞のプレゼンテーションで「私たちのコミュニティにおける多様性の増加と、世界中の自由と多様性への敬意を示している」と述べ、『ムーンライト』が作品賞に輝いた。
しかし2025年のアカデミー賞では、トランプ政権や政治的な話題はほぼ排除された。ハリウッドはワシントンとの距離を取りながらも、映画やドラマにおける多様性の推進は必要不可欠とされてきた。しかしトランプ氏のDEI撤廃キャンペーンの影響は深刻で、業界全体に動揺が広がっている。
ディズニーは最新の証券報告書で、2021年に始動した「Reimagine Tomorrow」などのDEI関連プログラムへの言及を削除。3月3日には、『プリンセスと魔法のキス』のティアナを主人公とするシリーズの制作中止を発表した。これは、ピクサーのアニメシリーズ『Win or Lose』でトランスジェンダーのキャラクターを登場させる計画が中止されたことに続く動きである。
ディズニーだけではない。アマゾン・スタジオも、黒人、ラテン系、先住民、中東系、アジア系のキャラクターを話し言葉のある役に最低1人起用するという方針を撤廃。パラマウントは人種や性別に基づく採用目標を廃止し、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーもDEIの「D」と「E」を削除した。アップル・スタジオはDEIの継続を表明しているが、雇用枠の設定など法的に問題となる可能性がある手法は避けている。
業界内では、DEIプログラムがマイノリティにとってハリウッドへの数少ない入口の一つであるという意見もある。『Gordita Chronicles』のショーランナー、ブリジット・ムニョス=リーボウィッツは、NBCの『Writers on the Verge』が自身のキャリアに大きな影響を与えたと語る。「これらのプログラムは限られた枠しかないが、ハリウッドに足がかりを作る貴重な機会だ」と彼女は述べる。
DEIの撤退がハリウッドの人材構成にどのような影響を与えるかは不透明だ。特定の人種や民族グループの採用を義務付けるDEIプログラムは長年法的にグレーゾーンとされてきたが、2023年の連邦最高裁の判決でアファーマティブ・アクションが違憲とされると、その傾向は加速した。多くの企業が「アンダーレプレゼンテッド(過小評価された)」「ユニークな視点」などの曖昧な表現を使うようになったのはこのためである。
一方で、DEIは本当にハリウッドを変革したのかという疑問もある。2020年のジョージ・フロイド事件後、業界は多様性推進を強調したが、その熱意は短命だった。2023年にはわずか10日間で4人のDEI担当重役が解任された。
アメリカ社会全体でもDEIに対する意見は分かれている。今年のYouGovの調査では、公教育や政府機関でのDEI撤廃に賛成する人が45%、反対が40%だった。企業においてもDEIの理念自体が問題視されているわけではなく、その運用方法に対する疑問が根強い。
例えば、映画芸術科学アカデミーは2020年にインクルージョン基準を導入したが、基準は緩く、過去数十年の作品賞候補作のほぼすべてが条件を満たしていたとされる。さらに、2020年以降のストリーミングブームでは多様性を強調した作品が多く制作されたが、現在の収益重視の環境下では「幅広い視聴者に訴求するコンテンツ」が求められ、多様性重視の作品は次々と打ち切られている。
また、DEIが公平な採用を損ねたという指摘もある。2022年以降、トランプ政権関係者が設立した保守派団体「America First Legal Foundation」は、ディズニー、CBSスタジオなどの企業を「白人男性を不当に排除した」として提訴している。
こうした状況を受け、多くの企業はDEI方針を見直しつつある。大手法律事務所ホワイト&ケースは今年1月、企業に対しDEI関連の開示内容を慎重に検討するよう警告した。パラマウントやワーナー・ブラザース・ディスカバリーも年次報告書で「DEIに対する規制が厳しくなっている」と述べた。
ピンタレストは2月6日の年次報告書で、「DEIの取り組みが不十分でも過剰でもリスクとなる」とし、企業はバランスの取れた対応を求められていると指摘している。
今後、トランプ政権がDEI撤廃を推進する中で、企業は法的リスクと社会的評価の狭間で難しい判断を迫られる。パラマウントやコムキャストが政府の調査対象となっていることを考えれば、多くの企業が静かにDEI方針を修正していく可能性が高い。
ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの元DEI担当上級副社長カレン・ホーンは、「連邦政府から資金提供を受けていない企業にDEI撤廃を強制することはできないが、トランプ政権の報復を考えれば慎重になる必要がある」と語る。
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ディズニーをはじめとするハリウッドメジャーは、トランプ二期目の政権が誕生してまだ2ヶ月だというのに、変わり身が早い。実際問題、トランプ政権への対応は企業の生き残りを考えて不可欠なことなのかもしれないが、これまでの施策をかなぐり捨てるような行為は、信頼を損ねる。今、世界的に難しいのはトランプへの対応と同時に、ポスト・トランプ時代への対応の考えねばならないということ。これで仮にアメリカが再びスイングした時、ハリウッドメジャーは人々に信頼してもらえるのだろうか(スイングしないでさらに過激になる可能性もあるのだが)。
DEI施策は、ハリウッドに完全に根付いたとは言い難いのかもしれない。しかし、少しでも現実を前進させたのかどうか、これまでを冷静に振り返る必要もある。