アメリカのドナルド・トランプ大統領による貿易戦争が激化する中、カナダのエンターテインメント業界では国内コンテンツを支持する動きが広がっているとHollywood reporterが報じている。カナダの映画産業は供給面でも雇用の面でもハリウッド映画への依存度が高い地域だが、その傾向に変化があるかもしれない。
カナダ映画祭(Canadian Film Fest:CFF)のディレクター兼プログラム責任者であるアシュリー・レインズ氏は、「カナダの映画を映画館で観ることは常に魅力的でしたが、現在のアメリカの状況を考えれば、それがより重要になっています。今こそカナダのストーリーを称え、国内の映画産業を支援すべき時です」と述べた。
また、独立系映画館を代表する団体「Network of Independent Canadian Exhibitors」のディレクターであるソニア・ヨコタ・マテ・ウィリアム氏は、ハリウッド映画のボイコットがカナダ国内で議論されていることを明らかにした。「現在の状況は非常に速いペースで変化しており、今後の展開を見極める必要があります」と語る。同氏によると、映画館経営者の関心は主にコスト上昇にあるという。
トランプ政権は、カナダからの輸入品に対し25%の関税を課し、石油・エネルギー輸出に10%、鉄鋼とアルミニウムに50%(その後25%に引き下げ)とする措置を実施した。この動きに対し、カナダ政府は報復措置として、アメリカからの鉄鋼製品に25%の関税を課し、工具、コンピューター、スポーツ用品、鋳鉄製品などの税率を引き上げた。
こうした動きの中、カナダ国内ではナショナリズムが高まり、エンターテインメント業界にも影響を及ぼしている。特に映画・テレビ業界では、アメリカからの輸入品を控え、国内調達を優先する動きが広がっている。トロントを拠点とするケータリング企業「Hearty Catering」のディレクターであるエヴリン・ガリビアン氏は、「カナダを支援するために、まずは地元で調達し、それが難しい場合は他国から仕入れるようにします」と語る。カナダ国内の映画やテレビ番組の撮影現場で提供される食事も、できるだけ地元産の食材を使用する方針だという。
また、カナダ国内のオンライン掲示板では「Netflixの代わりにカナダのサービスはあるか?」というスレッドが相次いで立ち上がっており、カナダ公共放送(CBC)が運営するストリーミングプラットフォーム「CBC Gem」が代替案として注目されている。
また、カナダの有料テレビ局「Super Channel」は、ロゴにカナダの象徴であるメープルリーフを加え、「Canadian, Always(常にカナダ)」というタグラインを発表した。CEOのドン・マクドナルド氏は「これは単なるロゴ変更ではなく、カナダのアイデンティティを称え、我々の国への愛を表現するものです」と述べている。
こうしたカナダ国内の機運の高まりについて、ウィリアム氏は「カナダ人であることの意味は一つではありません。そのためこそ、カナダの映画を観て、本を読み、演劇を体験することが重要なのです」と語った。
今後、カナダのエンターテインメント業界がどのように変化していくのか、引き続き注目すべきかもしれない。トランプ政権が強硬な関税政策を続けるのであれば、こうした動きはカナダに留まらず世界中で起きる可能性がある。ハリウッド映画業界は、トランプ政権とイコールではないが、世界中の反米感情の高まりでハリウッド映画の世界シェアに影響が出る可能性はあるだろう。