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トランプ政権で揺れるアメリカのドキュメンタリー映画界:資金難、配給の壁、MAGAの台頭


アメリカのドキュメンタリー映画界がトランプ政権によって揺れているようだ。Varietyが、かつて『不都合な真実』やルース・ベイダー・ギンズバーグのドキュメンタリー『RBG』を支援してきたeBayの元幹部ジェフ・スコール氏がトランプの勝利を称える「Make America Great Again」集会と就任パレードを主催したことや、ハリウッド幹部の方針転換を報じている。

スコール氏の突然の方針転換は、ドキュメンタリー界に大きな衝撃を与えた。ある関係者は「スコール氏はもうリベラル系のドキュメンタリーには興味がない。映画ビジネスから完全に手を引きたかったのだ」と語る。また、別の関係者によると、スコール氏は「イーロン・マスク氏に夢中になった」とも言われている。

こうした変化は、業界全体にも影響を及ぼしている。例えば、アマゾンは今年、環境問題を扱った3本のドキュメンタリーを買収したが、同時に不祥事で批判を浴びたブレット・ラトナー監督によるメラニア・トランプ氏のドキュメンタリーにも4,000万ドルを投じた。さらに、ディズニーもこの作品の獲得を狙い、報道されている1,400万ドルを大きく上回る額を提示していたという。一方で、リベラル寄りの作品への関心は低下している。Netflixは、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏を追った「Knock Down the House」や、ロシアのドーピング問題を扱った「イカロス」のような政治的ドキュメンタリーには消極的になっているという。

ドキュメンタリー業界の関係者からは、「資金提供者が神経質になっている」「開発段階での萎縮効果が生じている」との声も聞かれるようだ。スコール氏に代わる新たな資金源はまだ出てきていないようだ。

その影響は、作品の配給にも及んでいる。今年のアカデミー賞ドキュメンタリー部門で受賞した「No Other Land」は、イスラエルとパレスチナの対立を描いているが、いまだに配信先が決まらず、劇場上映も困難な状況だ。マイアミビーチ市長のスティーブン・マイナー氏は、地元映画館O Cinemaに対し、この作品の上映を中止するよう圧力をかけた。市長は劇場の賃貸契約を打ち切るとまで脅したが、市民の抗議を受けて撤回を余儀なくされた。

また、イスラエルのネタニヤフ首相の汚職疑惑を追ったアレックス・ギブニー監督の「The Bibi Files」も、昨年のトロント国際映画祭でプレミア上映されたものの、いまだに米国内での配給先が決まっていない。一方、ラトナー監督によるアブラハム合意に関するドキュメンタリーは、トランプ氏やネタニヤフ首相、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の協力を得て進行中だという。

さらに、ギブニー監督の新作「Musk」も、トランプ氏に影響を与える可能性があるマスク氏を扱うため、今後の配給状況が注目されている。この作品はHBO Maxでの配信が決定しているが、カンヌ国際映画祭での上映が期待されていたものの、HBO側は「完成が間に合わない」と発表した。

一方、保守系のドキュメンタリー制作者たちは、リベラル派が受けている逆風を「因果応報」と見ている。2020年の大統領選直前、アマゾン・プライムでの公開が遅れたロシアゲート疑惑を否定するドキュメンタリー「The Plot Against the President」の監督アマンダ・ミリウス氏は、「リベラル派は今さら検閲を受けていると嘆いているが、彼らはこれまで最も検閲とは無縁だった人々だ。我々はずっとこの問題と闘ってきた。彼らが初めてその苦しみを味わっているのを見るのは、正直なところ痛快だ」と述べた。

ハリウッドの中でも特にリベラル色が強いとされるドキュメンタリー業界で、MAGA(Make America Great Again)勢力が影響力を強める中、制作者たちは新たな現実に直面している。今後、どのような作品が世に出るのか、その行方が注目される。
 
※サムネイルは『ノー・アザー・ランド』Ⓒ2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA