『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』最終話「みんなが一番好きな自分でいられる世界」は、劇的な展開と社会風刺を織り交ぜたエンディングを迎えた。近年の劇場型SNS選挙を参考にしながら、現実社会でそれを仕掛ける連中とは、全く異なる動機で同様の戦略をしかける主人公の姿に、社会批評的な視座を感じさせる内容で面白かった。
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一平(香取慎吾)は長谷川区長(堺正章)のパワハラ問題を暴露し、一時は彼を窮地に追い込む。しかし、黒岩(橋本じゅん)が仕組んだ「AI生成動画説」により、世論は一気に逆転。SNSを通じた情報操作の危うさが鮮明に描かれた場面だった。長谷川は車椅子姿で記者会見を開き、黒岩を後継者に指名する。これにより、黒岩が区長選に出馬することとなる。
選挙戦は混迷を極める。真壁(安田顕)が三人目の候補として出馬し、「誰もが一番好きな自分でいられる街へ」というスローガンを掲げる。彼の誠実な訴えが支持を集める一方で、一平は徹底的なネガティブキャンペーンを展開。立花孝志的な劇場型選挙のパロディとも言える手法で、世間の関心を選挙に向けさせる。
一方で、一平の行動にはもう一つの目的があった。彼は真壁を勝たせるために、自らを「日本一の最低男」として演じ、スキャンダルの矢面に立つことで人々の注目を集めたのだ。結果として、選挙戦は盛り上がり、関心の低い層にも政治を考えさせるものとなった。
そして、最終的に選挙に勝利したのは真壁であった。黒岩は敗北を認め、「自分もまともな政治家になるつもりだったのに、いつの間にか腐敗していた」と語る。真壁は「一平がいる限り、自分は驕れない」と述べ、彼の存在が自身の戒めとなることを認めた。
一平が自ら立候補しながら、もう一人の候補者を勝たせるという展開は、兵庫県知事戦の2馬力選挙を彷彿とさせる。だが、現実の兵庫県知事選挙と異なるのは、2馬力選挙によって勝つのは、パワハラしていた側ではなく、区民の声を聞くまともな政治家である真壁であるということだ。一平のやり口はかなり立花孝志に似通っている。暴露ネタ、スキャンダルに誹謗中傷と見事なまでにどこかで見たことあるような劇場型のSNS選挙を展開していた。ある種の現実のパロディとして、この最終話を描こうとしていたのではないかと思う。
そこに絵本の『泣いた赤鬼』のエピソードを絡めて一平の行動を正当化させたのが上手かった。この絵本は、人間と仲良くなりたい赤鬼のために、青鬼がわざと人間を襲い赤鬼に助けさせる。赤鬼は人間と仲良くなれるが青鬼は嫌われどこかへと旅立つ。そのような自己犠牲の姿に一平を重ね合わせることで、彼が本当に街のためを思ってわざと憎まれ役を引き受けたことの説得力を作っていた。
現実の選挙では、私利私欲のために2馬力選挙を行う輩によってむちゃくちゃになっているわけだが、そんな現実とこのドラマが異なるのは、一平のこうした信念と動機のあり方だ。本当に街を良くするために、汚い手口を使い、自分を犠牲にしてまともな政治家を勝たせるのだ。
本作の最終話は、現代の選挙戦やSNSの影響力を巧みに批評しながら、エンターテインメントとしての面白さも兼ね備えていた。一平の自己犠牲的な役割は、政治のリアリズムとドラマのフィクション性を見事に融合させた結末として印象に残る。
そして、「日本一の最低男」というタイトルをきれいに回収した。彼は自ら最低男になることで街を救ったのだ。
登場人物
大森一平(香取慎吾)
小原正助(志尊淳)
小原ひまり(増田梨沙)
小原朝陽(千葉惣二朗)
今永都(冨永 愛)
黒岩鉄男(橋本じゅん)
長谷川清司郎(堺正章)
真壁考次郎(安田顕)
(C)フジテレビ