スイス公共放送(RTS)とNetflixが初めて共同制作した連続ドラマ『Winter Palace』が昨年末に公開された。本作はドラマとしての完成度は平凡ながら、スイスのエンターテインメント業界にとって歴史的な転換点を象徴する作品となった。
『Winter Palace』の舞台は1899年、スイス南西部ヴァレー(ヴァリス)州のアルプス。主人公アンドレ・モレルは、冬季も営業する最高級ホテルを開業し、スイスを世界的な観光地へと押し上げようと奮闘する。劇中で彼は「スイスの国民性とは何か」と問い、その答えを「小さくまとまること」だと定義する。しかし、彼自身はその枠を打ち破るべく、大胆な挑戦に打って出る。
本作はスイス公共放送協会(SRG SSR)とNetflixが共同制作した初のドラマであり、その制作過程自体がスイスのエンターテインメント業界の変革を示している。
Netflixがスイスのコンテンツ制作に関与するのはこれが2回目であり、最初の試みは2023年公開のスリラー映画『Early Birds』だった。こうした国際共同制作は今後も増加するとみられる。2024年1月から、NetflixやDisney+、Amazon Prime Videoといった動画配信サービスは、2022年の国民投票で可決された「Netflix法」により、スイスで得た収益の4%をスイス国内の映画・テレビ番組制作に投資することが義務づけられた。
この制度はヨーロッパでは珍しいものではなく、イタリアやフランスでは既に同様の法律が施行されている。しかし、スイスにとってはエンターテインメント業界の歴史的な転換点となる可能性が高い。本作は、この新たな資金供給モデルがどのような影響をもたらすかを示す試金石とも言える。
『Winter Palace』の制作には、フランス語圏スイス公共放送(RTS)、ジュネーブの制作会社Point Prod、パリの制作会社Obleが関与し、Netflixが共同制作に加わった。RTSは2020年からNetflixと協議を重ね、本プロジェクトを推進してきた。
本作は国際市場を意識した作品となっており、保守的なスイスの山岳民、傲慢な英国貴族、その娘である婦人参政論者、気取ったオーストリア人女優、テキサスの石油王といった多様なキャラクターが登場する。こうしたステレオタイプの活用や「スイスらしさ」の強調は、視聴者に「スイス製Netflix作品とはこういうものか」という印象を与えるものとなっている。
ネットフリックスの関与による影響については賛否が分かれるが、RTSのリードプロデューサー、パトリック・スーナー氏によれば、「Netflixが加わった時点で脚本はほぼ完成していた。指摘やコメントは受けたが、基本的には既存のプロジェクトに敬意を払ってくれた」と語る。
Netflixなどの大手動画配信サービスとの共同制作は、スイスのテレビ業界にとって新たな挑戦となる。RTSはすでにTF1(フランス)、ARTE(ドイツ・フランス)、France Télévisions(フランス)、Radio Canada(カナダ)と協力し、さらなるシリーズ制作を進めている。
『Winter Palace』は、スイス公共放送協会(SRG SSR)とSky Deutschlandのスイス子会社が共同制作した犯罪コメディ『Tschugger』と並び、スイスのテレビ業界が「小さくまとまる」時代を脱しつつあることを示している。
『Winter Palace』の制作には700万スイスフラン(約12億円)以上が投じられたが、それでも十分とは言えず、Netflixという強力なパートナーの支援が不可欠だった。このような大規模プロジェクトの成功は、スイスのエンターテインメント業界にとって重要な転機となる。
スーナー氏は「この作品の成功は、スイスのオーディオビジュアル部門全体にとって大きなチャンスとなる」と述べている。『Winter Palace』がもたらす影響は、今後のスイスの映像制作に大きな変化をもたらすことだろう。
ソース:“Winter Palace”: behind the scenes of a Franco-Swiss Production | CNC
初のスイス製Netflixドラマ、「小さくまとまる」国民性覆す – SWI swissinfo.ch