『昭和残侠伝』『遠山の金さん』『極道の妻たち』など、東映の映画やドラマに登場する鮮烈な刺青。その芸術的な絵柄を手掛けた一人の「刺青絵師」にスポットを当てた書籍『刺青絵師 毛利清二-刺青部屋から覗いた日本映画秘史-』が3月24日に刊行される。
本書では、東映京都撮影所の一角に「刺青部屋」を構え、80歳まで絵筆を振るい続けた職人・毛利清二の軌跡をたどる。刺青を描く技術や撮影現場でのエピソード、さらには名だたる俳優たちとの交流が明かされる。
刺青を“描く”映画づくり
映画やドラマの撮影においてどのように刺青が描かれていたのか、その手法が詳しく紹介される。図案の決定から道具の準備、実際の撮影時の対応、さらには刺青と俳優の演技の関係性まで、映画製作の裏側が描かれる。特に、『徳川いれずみ師 責め地獄』の制作秘話や、「遠山の金さん」における刺青再現のプロセスなど、貴重なエピソードが満載だ。
また、毛利清二と俳優たちの交流にも焦点を当てている。藤純子(現・富司純子)、鶴田浩二、美空ひばり、高倉健、若山富三郎、北大路欣也、松方弘樹、渡瀬恒彦、高島礼子、渡辺謙といったスターたちとの思い出が語られる。俳優たちが刺青をどのように受け入れ、演技に生かしたのか、その舞台裏が明かされる。
また、高橋英樹によるコラムでは、刺青を描かれる側の視点から見たエピソードも収録されている。
さらに、毛利清二の生い立ちから東映京都撮影所でのキャリア、そして刺青絵師としての歩みが綴られる。繊維会社から映画の世界へ転身した経緯や、近衛十四郎の付き人時代の逸話、大部屋俳優としての経験、やくざ映画全盛期の撮影所の雰囲気など、映画業界の歴史とともに語られる。
さらに、日本アカデミー賞特別賞受賞の裏話や、未完に終わった映画企画、毛利の健康の秘訣まで、その生涯が余すことなく描かれる。
解説では、映画における刺青の役割や、時代劇・任侠・実録映画と刺青の関係、さらには日本社会における刺青文化の変遷について、研究者の視点から考察される。映画史と文化人類学の観点から、刺青がいかに映画表現の一部として機能してきたのかが論じられる。
本書は、東映作品のファンはもちろん、映画制作の舞台裏に興味がある読者にとっても貴重な一冊となるだろう。