[PR]

NHKドキュメンタリー「グローバルヒットメーカー」感想とレビュー:押山清高監督の制作過程に密着、MAPPAも登場


NHK BSのドキュメンタリー番組『グローバルヒットメーカー ジャパンアニメの革新者たち』は、日本アニメ界の最前線で活躍するクリエイターたちの姿を追った内容だった。特に、押山清高監督の取り組みに焦点を当て、日本アニメがグローバルな市場でどのように評価されているのか、手描きのアニメという、世界的には古い手法で洗練されていった日本アニメの未来を考えるといった番組になっていた。

押山監督は、自ら作画を手がける監督兼アニメーターとして知られ、そのタッチを大切にする姿勢が日本アニメのビジネスモデルと結びついていることが番組内で語られた。彼が監督を務めた『ルックバック』は、32の国と地域で公開され、興行収入は44億円を超える成功を収めた。その表現力と物語性は海外の観客にも深く響き、欧米のアニメファンからも「こうした作品が自分たちの国にも必要」との声が紹介されたりしていた。

番組では、アニメ制作の現場にも密着。押山監督が福島県のPRアニメ制作に関わる様子が紹介された。この短編アニメ制作のプロセスを一つの大きな軸として番組を構成している。その合間にその他のアニメ関係者の証言や、海外出身のクリエイターの声などが挟まれていく。

MAPPAの林祐一郎監督や牧田佳織監督らも登場し、3Dと作画の融合について語っていた。林監督は「作画と3Dの両方の長所を生かすことが重要」と述べ、牧田監督も「得意不得意を補い合う形が理想」と語る。3Dアニメへの海外の評価についても議論がなされ、日本の手描き文化を重視する傾向が指摘されるが、林監督はどちらがどうとかはないという。

また、アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏やプロデューサーのケン・ツムラ氏、アニメーション監督のマイケル・アリアス氏ら日本アニメの強みや押山監督のセンスについて語る。氷川氏は「原作のポーズの再解釈がすごい」と評価し、ツムラ氏は「線を感情的な物語へ落とし込むことで特別な作品になった」と指摘した。アメリカと日本のアニメ文化の違いについても議論が交わされ、日本のアニメは「クリエイティブで自由度が高い」との見方が示された。

番組後半では、押山監督の原点に迫る。幼少期のスクラップブックや『電脳コイル』での経験、井上俊之氏から受けた影響などについて語る。井上氏もインタビューを受けており、押山監督はとにかく上手くて早かったと称賛していた。さらには押山監督が自身の制作会社設立に至る経緯が語られた。アニメーターとしてのこだわりが、会社設立の決断にもつながったことが明かされる。日本のアニメは分業体制になっているが、もっと自分であれもこれもやれるほうが楽しいのでは、という思いがあるとのこと。

さらに、押井守監督が登場し、「芸術の価値は長い目で見なければならない」と語り、アニメ業界の変化についての議論が展開された。MAPPAの大塚学氏は「アニメ制作だけのビジネスは非効率であり、権利運用が重要」と指摘し、今後の展望についても言及された。

押山監督がアニー賞にノミネートされ、ロサンゼルスを訪問する様子なども取材している。LAの街の植物が日本とは異なることに、興味津々で観察に勤しむ姿などが映される。日本と異なる環境に刺激を受けながら、「アニメ制作に飽きない方法を模索したい」と語った。手描き表現の未来やAIの影響についても言及し、アニメの在り方が変わる可能性を示唆した。

番組の最後には、福島PRアニメの完成映像が公開され、その情緒豊かで大変感動的な映像になっていた。この作品はYoutubeでも視聴できるが、テレビで見られるのは、この番組内だけだったかもしれない。

番組全体の感想としては、まだ「手描きVSCG」という構図が見え隠れするのがちょっときになると言えば気になるのだが、押山監督というクリエイターの仕事ぶりを色々と見られ、今後のアニメ業界や表現がどうなっていくのかに着いての考えが聞ける点で貴重な番組だったと思う。

ルックバック

ルックバック

河合優美, 吉田美月喜
Amazonの情報を掲載しています