アメリカの映画館に人が戻りきっていない現状をVairetyがまとめている。米映画館業界は、いまだコロナ禍からの完全な回復を遂げていない。かつて観客を魅了し続けたシネコンも、多くが苦境に立たされている。
「パンデミックを経て、多角化の必要性を痛感した。もはやスタジオが提供する映画だけに頼るわけにはいかない」と、B&B TheatresのCEOであるボブ・バグビー氏は語る。同社は現在、ミズーリ州やミシシッピ州、カンザス州、アイオワ州、オクラホマ州、テキサス州、フロリダ州などでこの新たな形態の劇場を4つ開業し、今年中にさらに4つをオープンする予定だ。バグビー氏は「観客が長く滞在し、お金を使う仕組みを作ることが鍵だ」と強調する。
しかし、コロナ禍から5年が経過した今も、映画館業界全体の観客動員数と興行収入は低迷している。ストリーミングサービスとの競争が激化する中、映画館の存続が危ぶまれている。
「回復は予想以上に遅れている」と、調査会社ロス・キャピタル・パートナーズのエリック・ハンドラー氏は指摘する。「業界内では倒産する企業が相次ぎ、大手チェーンの多くが劇場を閉鎖した」。
実際、リーガル・シネマズ、パシフィック・シアターズ、アラモ・ドラフトハウスなどの映画館チェーンが破産申請を行い、一部は再建を果たしたものの、多くの劇場は閉鎖された。メディア調査会社オムディアの調査によれば、北米のスクリーン数はコロナ前と比較して5,691も減少している。
興行収入の回復も道半ばだ。2024年の北米映画興行収入は87億ドルで、パンデミック前と比べて23.5%減少している。映画館オーナーたちは回復を信じているが、今年に入っても「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」などのフランチャイズ作品が期待を下回り、「ミッキー17」のような大作も振るわなかった。
夏以降には大作・話題作が控えているものの、依然として状況は厳しいようだ。業界関係者によれば、映画館に通う習慣を失った観客の15~20%は、未だに戻ってきていないという。
「100年前と同じ方法ではもう通用しない。新たな戦略が必要だ」と、映画館コンサルタント会社The Fithian Groupの共同創設者であるジョン・フィシアン氏は指摘する。
映画館側も、より魅力的な体験を提供しようと努力している。フードメニューの拡充や劇場の改装、ロイヤルティプログラムの強化などを進める中、一部の劇場ではダイナミックプライシングの導入も検討されている。例えば、大作映画には通常より高い料金を設定し、ドラマやコメディなどのジャンルには割引を適用するという試みだ。「アベンジャーズやジュラシック・ワールド、スター・ウォーズには高額料金を設定してもいいが、他の映画には適切な価格設定をする必要がある」。
また、やはりストリーミング配信が開始されるのが早すぎるという意見は根強いようだ。「映画館の回復がこれほど遅れたのは短縮された上映期間が原因だ」と指摘し、最低60日に戻すよう交渉を進めている。
IMAXや4DXといったプレミアムスクリーンの需要も拡大しているが、劇場の改装やプレミアムスクリーンの導入には資金が必要であり、金融機関の融資が厳しくなっている。映画館業界団体Cinema Unitedの代表マイケル・オリーレイ氏は、「資金調達の環境を改善し、映画館の未来を見据えた投資を進めることが不可欠だ」と語る。