ニューヨークに実在した伝説のレンタルビデオショップ「キムズビデオ」の軌跡を追うドキュメンタリー映画『キムズビデオ』が、今夏、日本で公開されることが決定した。ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開となる。日本公開決定に伴い公式サイトも開設。インターネット初期のテキストサイトを思わせるレトロがデザインが特徴だ
世界を席巻した異色のドキュメンタリー
『キムズビデオ』は、2023年のサンダンス映画祭でワールドプレミアを迎え、「遊び心がハンパない」「常軌を逸したドキュメンタリー」と称賛され、大きな話題を呼んだ。その後、トライベッカ映画祭をはじめ59の映画祭で上映され、シッチェス映画祭・ドキュメンタリー部門の最優秀作品賞を含む計7つの賞を受賞するなど、世界各地で高い評価を得ている。
1987年、韓国系移民のキム・ヨンマンがニューヨークに開業した「キムズビデオ」は、世界中から集められた5万5000本にも及ぶ希少な映像作品を所蔵し、シネフィルの聖地として知られていた。作品の入手ルートは独自のもので、映画祭や各国の大使館を通じて調達され、大手レンタルビデオ店では手に入らない貴重なコレクションが揃っていた。
この店の会員数は25万人を超え、若き日のコーエン兄弟や、『ジョーカー』シリーズのトッド・フィリップス監督、『スイート・イースト』のショーン・プライス・ウィリアムズ監督らもこの店に関わり、映画文化の発展に貢献していた。
しかし、そのコレクションには違法コピーや海賊版も含まれており、FBIによる押収やジャン=リュック・ゴダールからのレンタル差し止め通告など、伝説的なエピソードも多い。
伝説のビデオコレクションが辿った数奇な運命
2008年、ビデオレンタル時代の終焉とともに「キムズビデオ」は閉店。その後、コレクションはイタリア・シチリア島のサレーミに移設された。しかし、元会員のデイヴィッド・レッドモンが訪れると、ビデオテープは湿気と埃にまみれた劣悪な環境に放置されていた。
レッドモンは、この唯一無二のコレクションを救うべく奪還を決意。アルフレッド・ヒッチコックやチャールズ・チャップリン、イングマール・ベルイマン、ジャッキー・チェンら映画界の巨匠たちの“精霊”を召喚し、架空の映画撮影を装うという前代未聞の作戦を実行する。
日本版ティザービジュアルも完成。VHSテープをモチーフに、創業者キム・ヨンマンの姿がデザインされており、懐かしさと神秘的な魅力を兼ね備えたビジュアルとなっている。

日本公開に向けて監督からのコメント
監督を務めたアシュレイ・セイビンとデイヴィッド・レッドモンは、日本の配給チームとの出会いを振り返り、「フィジカルなメディアを愛し、それを観客に届けようとする彼らと情熱を共有できた」と語る。そして、「東京には映画のゴーストが息づいているのを感じる」と期待を寄せている。
日本では、昨年SHIBUYA TSUTAYAがリニューアルし、かつての膨大な映像コレクションを目にする機会が減っている。また、今年は「ビデオテープ2025年問題」により、映像メディアの保存が危機に瀕しているとも言われている。
そんな今こそ、『キムズビデオ』は、映像文化の価値を見直す絶好のタイミングでの公開となる。