フランス・リールで開催された「シリーズ・マニア 2025」では、世界の脚本ドラマ市場の現状と今後の展望について活発な議論が交わされた。業界関係者が一堂に会し、番組の買い付けや共同制作の可能性を探る中で、いくつかの重要なトピックが浮かび上がった。
市場の安定化と縮小
脚本ドラマ市場は、ピーク時と比べて約25%の減少が見られるものの、2023年のハリウッド脚本家・俳優ストライキやストリーミング企業の収益重視への転換、商業テレビの広告市場の低迷といった要因による急激な落ち込みは収まりつつある。Ampere Analysisの発表によると、市場は安定化の兆しを見せており、バナジー(Banijay)の脚本部門責任者ヨハネス・イェンセン氏も「資金調達は依然として困難だが、特にヨーロッパでは脚本ドラマの需要が依然として高い」と述べた。
共同制作の必要性
市場環境が厳しくなる中、制作会社や放送局はこれまで以上に共同制作に関心を寄せている。バナジーのスティーブ・マシューズ氏は、「より賢い資金調達の方法が求められており、共同制作への関心は高まっている」と語る。特にイギリスでは、多くの脚本ドラマが資金不足により制作が一時停止している。従来、イギリスのドラマはアメリカとの共同制作によって支えられていたが、現在アメリカのテレビ業界はネットワークやケーブルの衰退に直面しており、新たな共同制作案件が生まれにくい状況だ。このため、イギリスはヨーロッパ市場との連携を模索しているが、ヨーロッパ側の制作会社からは「イギリス側の期待が非現実的だ」との声も聞かれた。
ヨーロッパの自信
ヨーロッパの放送局は長年にわたり共同制作を進めてきた。「シリーズ・マニア」では、ドイツのZDF、フランス・テレビジョン、イタリアのRAIなどが参加する「European Alliance」や、北欧諸国、オランダ、ベルギーの放送局が参加する「New8」による大型制作案件が発表された。フランスの文化相ラシダ・ダティ氏は「欧州の文化発展の飛躍的成長が求められる」と語り、欧州ドラマの国際競争力強化を強調した。
映画とドラマの融合
映画とテレビドラマの境界はますます曖昧になりつつある。シリーズ・マニアでは、スイスの映画監督ジャン=ステファン・ブロン氏とフランスのアリス・ウィンクール氏が共同で制作した『The Deal』がバイヤーズ・チョイス賞を受賞。また、映画『アナトミー・オブ・ア・フォール』のプロデューサーが手がける『Kabul』や、映画プロデューサーのシャルル・ジリベール氏による新シリーズ『Kitchen Hustle』など、映画界の著名な人物がドラマ制作に携わるケースが増えている。
犯罪ドラマの人気継続
Ampere Analysisの調査によると、ヨーロッパにおける新作脚本ドラマのうち31%が犯罪・スリラージャンルに分類される。特にストリーミング企業は、広告収入の確保のためにも、視聴者の継続的な関心を引く犯罪ドラマを重視している。一方で、SFやファンタジーのような高額な制作費がかかるジャンルは停滞しており、ストリーミングサービスの子供向けオリジナル作品の新規制作も減少傾向にある。
独立系ドラマの苦戦
大手制作会社や放送局の共同制作が増加する中、資金力に乏しい独立系ドラマは市場での存在感を確保するのが難しくなっている。映画監督クーパー・ライフ氏が6年かけて自費制作した『Hal & Harper』は、サンダンス映画祭での上映後、ようやく米国の配給契約を獲得したが、その過程は容易ではなかった。
「シリーズ・マニア」の成熟
10周年を迎えた「シリーズ・マニア」は、脚本ドラマ市場における重要な共同制作フォーラムとしての地位を確立した。MIPTV(カンヌで開催されていたテレビ見本市)の衰退も追い風となり、過去最高の業界関係者が参加。NetflixやAmazonもヨーロッパ市場での制作意欲をアピールした。新設されたバイヤーズ・アップフロントではApple TV+やNBCユニバーサルなどの大手企業が参加し、恋愛コメディ『Tokyo Crush』が最優秀プロジェクト賞を受賞するなど、今後の市場動向を占う上で重要なイベントとなった。
「シリーズ・マニア 2025」は、脚本ドラマ市場の縮小が続く一方で、安定化の兆しが見え、共同制作の重要性が増していることを示すイベントとなった。今後の市場動向において、ヨーロッパの制作会社や放送局が果たす役割はますます大きくなりそうだ。