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テレビ番組製作会社の経営環境が深刻化、ATP調査で実態明らかに – 売上横ばいも利益大幅減、人材確保や著作権にも課題


一般社団法人全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)が実施した「ATP経営情報アンケート」の結果がこのほど明らかになった。本調査は、厳しさを増すテレビ番組製作会社の経営実態を把握するため、2012年度より継続して実施されている。今年度は外部の有識者と研究会を発足し、統計的な分析を加えることで調査結果の信頼性を高めた。

調査の結果、売上高は前年と比較して横ばいであったものの、営業利益および経常利益は全体平均で10%以上減少したことが判明した。また、外部スタッフの活用や固定費の削減が進む一方で、制作費の適正な価格転嫁が反映されていないケースが多く見られ、製作会社を取り巻く経営環境が一層厳しさを増している現状が浮き彫りとなった。労働環境の改善も一部で見られたものの、依然として多くの課題が残されている。

本調査は、ATP正会員社(アンケート実施時の会員社数120社)を対象に、2023年度の経営状況について、2023年9月20日から10月9日の期間で実施され、93社(回答率77.5%)から回答を得た。監修は上智大学教授の音好宏氏が務めた。

放送局のコストカットと製作会社の苦境

調査結果からは、「取り巻く環境がより厳しくなっている」ことが明白に示された。バブル経済崩壊後の日本経済の低迷が続く中、放送局の番組制作費の圧縮が継続しており、ATP加盟の製作会社の多くは、その営業利益において放送局との取引が大きな割合を占めている。そのため、放送局の番組制作費の圧縮は、製作会社の経営に直接的な影響を与える。今回の「2024年度経営情報アンケート」では、放送局の経営環境の悪化に伴うコストカット、制作費の圧縮、そして働き方改革による人件費の高騰を受け、製作会社の半数が売上を下げ、経営環境が厳しさを増していることが読み取れる。昨年の同様の集計では、前年を下回った社は3割程度であったことからも、状況の悪化が顕著である。

また、事業規模による格差も拡大傾向にあると推察される。一般的に、事業規模の小さい製作会社の方が経営環境はより厳しい状況にある。さらに、近年、製作会社にとって大きな課題となっているのが、恒常的な人材不足の問題であり、特に新卒の確保に苦労している。アンケート結果では、製作会社に対して「新卒の応募が減少」するとともに、「正社員率が下がり、契約スタッフが増加傾向」にあることが示された。制作現場ではAD不足が慢性化しており、かつて超人気業種であったマスコミ業界は労働力確保に苦労している様子が確認された。中小規模の会社が多い日本の製作会社では、賃金体系がわかりにくく、中途採用においては前職の給与を基準に調整されることが多く、就職後のキャリアパスやスキルアップのロールモデルが見えにくいという課題も指摘されている。

低迷する著作権保有率と制作費交渉の現状

2024年度の製作会社の著作権保有率は、全体で1割程度に留まっている。最も高い「配信」においても25.8%であり、製作会社が制作に関わる映像コンテンツにおいて、その権利を十分に得られていない現状が明らかになった。総務省では、「放送コンテンツの適正な製作取引の推進に関する検証・検討会議」を定期的に開催し、「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」の見直し・改定を行っている。同会議においてATPは、継続的に「発意と責任」に基づいた製作会社の知的財産権の確保を主張している。

また、制作費決定に関する放送局との協議状況について尋ねたところ、「協議があった」との回答は約7割であった一方、「協議の場はなく、局側から一方的に提示された」との回答も2割5分に上った。協議があった場合でも、制作費の決定が「内容にかかわらず制作費が決定した」との回答が約6割を占めており、実質的な交渉が行われていない可能性が示唆された。

物価高騰の影響と遅れる価格転嫁

近年の物価高騰を受け、価格転嫁が重要な課題となっているが、この価格転嫁について局との交渉状況を調査したところ、「交渉の場があった」が65.1%、「交渉の場がなかった」が21.5%、「交渉を申し入れたが場は設けられなかった」が3.5%であった。中小企業庁の調査によると、価格転嫁の状況が相対的に良い業種としてかつて上位に位置していた「放送コンテンツ」は、昨年度調査では下位に低迷しており、価格転嫁率は他業種に比べて遅れている。実際に、物価上昇分の価格転嫁が「全てではないが一部価格転嫁が出来た」と回答した社は74.4%であった一方、「価格転嫁に応じて貰えなかった」との回答も19.6%に上った。十分に価格転嫁ができたと感じている製作会社はわずか6%であった。

人件費・管理費への認識のずれと今後の課題

製作に関わる人件費が適正に支払われているとは思わないと回答した社は8割を超えた。また、制作費に関する問題点として、「予算枠ありき」「人件費に対する考慮がない」「コンテンツに対する権利分配」など、多くの切実な意見が寄せられている。管理費についても、製作会社と放送局の間で周知状況に認識のずれがあり、製作会社と比較して放送局内では管理費が周知されていないと感じている社が多いことがわかった。業界全体の管理費の利率の中央値が中小企業全体の販管費率の平均値を下回っている現状も指摘され、今後の交渉による改善が期待される。

今後影響が大きいと考えられるNHK減波については、回答社のうち42.3%が「影響がある」と回答しており、企画募集の一時停止や提案の通りにくさ、制作本数の減少などが具体的な事例として挙げられた。コンテンツの二次使用(TVer等)に関しても、作業に見合う対価が得られていないという声が多く、配信の普及により実質制作コストが下がっていると感じる会員社も増えている。

ATPは、今回の経営情報アンケートの結果を重要な手がかりとして、日本の映像コンテンツ市場における製作会社の立ち位置と今後のあり方を積極的に検討し、その将来像を発信していくとしている。業界全体としてこの苦境に立ち向かい、持続可能な発展を目指すための取り組みが求められる。

ソース:テレビ番組製作会社 経営情報アンケート調査報告
テレビ番組製作会社のリアルな姿を映し出す「ATP経営情報アンケート」結果を発表 | 一般社団法人全日本テレビ番組製作社連盟のプレスリリース

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