配達員による郵便物の大量廃棄、強引な保険営業、さらには横領や詐欺まで。日本郵政グループの内部で何が起きているのか。2007年の民営化から17年、全国2万4000局、従業員30万人を擁する巨大組織の深層をえぐるノンフィクション『ブラック郵便局』(著:宮崎拓朗)が、読者からの反響を受けて3刷の重版が決定した。
著者は西日本新聞の記者・宮崎拓朗氏。6年以上にわたり1000人以上の関係者に取材を重ねた本書は、調査報道大賞やジャーナリズムXアワードなどを受賞した筆者の執念の記録である。
本書が描き出すのは、市民の暮らしに密着した郵便局の裏側に潜む過酷な現実だ。年賀はがきの「自爆営業」で総額100万円を自腹購入した局員、懲罰研修で反省文提出後に土下座を強要されたケース、さらには自死に追い込まれた職員の例も報告されている。
保険営業の手法も苛烈だ。認知症の高齢者への強引な勧誘、持病を隠しての契約を促す「不告知教唆」など、その実態は「振り込め詐欺のアジト」との指摘すらある。2024年だけでも、苦情件数は4,483件にのぼった。
さらに、政治との癒着も看過できない。選挙時の「事前運動」が常態化し、公職選挙法違反が疑われるケースもある。郵便局が「自民党の集票マシン」として機能していた実態を、本書は告発する。
推薦者であるジャーナリストの江川紹子氏は「ここまでひどかったのか」と驚愕し、作家・塩田武士氏は「部下を人と思えぬ上司は、今すぐ職場を去れ」と怒りを込めてコメントを寄せている。
読者からも「涙が止まらなかった」「郵便局の常識が社会の非常識になっている」などの声が寄せられており、現役局長からは「このままでは現場が壊れる」との悲痛な訴えも届いている。
『ブラック郵便局』は、普段見過ごされがちな窓口の向こうに広がる絶望の構図に光を当てる一冊だ。社会の基盤を支える郵便局という組織の「闇」に切り込んだ、今読むべきノンフィクションといえる。