文化庁「文化資源活用推進事業」令和6年度事例集が発行
文化庁は、地域における多様な文化芸術活動を基盤とし、その振興を図ることを目的とした「文化資源活用推進事業」の令和6年度事例集を発行した。本事業は、日本博2.0を契機として、地域の文化芸術資源を活用した新たなインバウンド需要に資する事業を支援するものであり、創造性ある文化芸術事業の自走化に向けた取り組みを推進する。
令和6年度は札幌市、京都市、別府市の3団体が採択。各地域では、それぞれの文化資源を活かした特色ある事業が展開されている。
札幌市は、国際的な音楽祭「PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)」を活用した地域文化芸術の振興及び国内外観光客の誘致事業を実施。PMFは世界三大教育音楽祭の一つであり、若手音楽家の育成とクラシック音楽の普及啓発を目指している。令和6年度は、演奏会事業や音楽普及事業に加え、観光・インバウンドに向けた情報発信やツアー造成が行われた。課題として、インバウンド参加者の伸び悩みや情報発信における媒体の棲み分けの不明瞭さが挙げられ、SNSチームによる戦略的な情報発信や非言語な「音」を活用した地域内での魅力発信などの解決策が試みられた。また、企業版ふるさと納税制度の活用による資金調達の多角化も図られている。EXest株式会社代表取締役CEOの中林幸宏氏は、PMFのポテンシャルの大きさを指摘し、「音」と「人」を前面に出したイベントによる認知拡大を提言している。
京都市は、「KYOTO×Media Performing Arts ~古都で交わる伝統と現代~」と題し、岡崎を中心にメディア芸術、舞台芸術、美術と京都ならではの文化・観光資源を融合させた総合文化芸術事業を展開。西日本最大規模のメディア芸術見本市「京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)」をはじめ、様々なイベントを実施し、関係人口の増加と住民・インバウンドの交流機会創出を目指した。情報発信プラットフォーム「KYOTO CREATIVE PARK 2024」の構築や、バーチャル空間「京都館PLUS X」を活用した魅力発信も行われた。継続的な来場者確保が課題となっており、ファンを軸とした誘客・周遊促進やCRMを活用したリピーター育成などが検討されている。資金調達においては、スポンサー営業のアプローチ先の拡張や企業版ふるさと納税制度の活用が図られた。株式会社アンドアイ代表取締役社長の室田明里氏は、日本の文化芸術事業が担う文化資源への興味を育み高め、国内外へ展開する戦略の重要性を指摘している。
別府市は、別府市を起点とした大分県の地域文化資源活用推進事業として、文化観光のハブを目指したプロジェクトを展開。国際的なアーティストを招聘したアート展示「ALTERNATIVE-STATE」や若手アーティストの支援を目的とした「Art Fair Beppu・プレ」、市民参加型の文化祭「ベップ・アート・マンス2024」など、多様な事業を実施。また、地域住民がガイドを務める文化観光ツアーの造成や文化観光音声ガイドの制作も行われた。インバウンドのアートファンへの情報リーチが課題となっており、ターゲット国の専門機関・専門媒体の活用やWebサイト・SNSと現地体験の一貫性のある情報発信などが検討されている。旅行者の現地でのアート体験向上を目指し、駅前の観光案内所でのチケット販売も開始された。Kiwi PR合同会社代表の植田聡子氏は、アートツーリズム推進にはアクセスや宿泊環境の整備が不可欠であると指摘している。
事例集では、これらの事業の概要や伴走型支援の内容、課題と解決の方向性、今年度事業への反映などが詳細に報告されている。また、文化資源を活用した文化芸術事業への専門家の提言や、事業者が共通して抱える課題とその解決策の例も提示されている。TOPPAN株式会社情報コミュニケーション事業本部の神谷荘太氏は、マンガ・アニメ等のOTAKU Cultureを地域で扱う事業においては、ターゲット設定の重要性や「地域を見てほしい」は受入側の都合であるという認識、収益化のタッチポイントを増やすことの3点を挙げている。株式会社NTTデータ経営研究所の桑原佐知子氏は、文化資源の提供価値の特定とポジショニング、文化関係者と観光関係者の連携の重要性を強調している।武蔵野美術大学の大和田龍夫氏は、文化資源活用推進事業におけるプレイヤーの連携と、文化発信拠点のハブ・触媒としての役割に期待を寄せている。
本事例集は、文化資源を活用した文化芸術事業に関わる地方公共団体や関係者にとって、貴重な参考資料となるであろう。
小さな会社のインバウンド売上倍増計画 54の「やるべきこと」と「やってはいけないこと」 (日本経済新聞出版)