無気力な青年が見つめる“神も仏も知ったこっちゃない”世界――20歳・田辺洸成の初長編映画が問う現実
第46回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)のコンペティション部門「PFFアワード2024」に入選した映画『さようならイカロス』が、東京・渋谷のユーロスペースにて5月24日(金)および25日(土)の2日間限定で上映されることが決定した。
本作は、福岡県出身の田辺洸成が監督・脚本・編集を務めた初の長編映画。田辺は現在20歳で、青山学院大学総合文化政策学部に在籍。小学生の頃から映画づくりを始め、高校時代に制作した『愛の惑星』(2022)はTOHOシネマズ学生映画祭などでも上映された。今回の『さようならイカロス』も、これまで同様、友人たちとの共同制作によって生まれている。
『さようならイカロス』は、無気力な青年・ケンが、同じく無気力な女性との出会いを通じて、同性愛、性虐待、貧困、暴力、死といった、薄皮一枚向こうにあるリアルと否応なしに向き合うことになる群像劇である。作中には、監督自身の心の叫びが全編を通してこだまし、目を背けたくなるような現実を観客に容赦なく突きつける。まさに問題作とも言える1本である。
出演者には、大田健、田辺洸成、稲葉釈阿、大野善徳、敦賀伶美らが名を連ねる。制作には演技や映像制作未経験の友人たちが参加し、1台のカメラと1本のマイクのみで撮影が行われたという。監督・脚本・編集を田辺が務め、原案は田辺、関翼、大田健の3名、助監督には関翼が名を連ねる。上映時間はカラー/107分。
田辺は本作について、「今はもう撮れない、そんな映画になった。友人との遊びの延長のような撮影だったが、そこには最もリアルな、生の実感が存在した」と語る。また、「大人になるということは、ティーンエイジャー特有の感情の機微と、そこに付随する傲慢さに別れを告げることなのではないか」と、自身の内面との対話を振り返る。
主演の大田健は、「このメンバーで、あの時、あの場所でしか撮れない映画を撮れたと思う」と語り、「演技というよりも、等身大の姿を記録した。『自分たちを見てくれ』という意志がチーム全体にあった」と作品に込めた思いを明かしている。
文筆家の折田侑駿は、「これはいつの時代に撮られた映画なんだ!──と、スクリーンを見上げる誰もが思うだろう。だが、上映が終わるころには、“いまこの瞬間”を撃ち抜いた映画だと確信することになるはずだ」と称賛。PFFディレクターの荒木啓子も、「映画が好きすぎて8ミリで無茶苦茶に撮っていた時代――PFF創設期の熱気を思い起こさせる」と本作の熱量に触れている。
YouTubeでは予告編も公開中。上映はいずれも夜帯を予定。虚無と痛み、そして青春の衝動がスクリーンに焼きつけられた本作が、観る者にどのような“現実”を突きつけるのか、ぜひ劇場で確かめてほしい。