日本貿易振興機構(JETRO)ドバイ事務所デジタルマーケティング課はこのほど、MENA(中東・北アフリカ)地域主要5カ国におけるゲーム産業の統合調査に関するレポートを発表した。本稿では、その概要をまとめる。
世界のゲーム市場は年平均成長率(CAGR)8%で成長すると予測されており、2027年には2,500億米ドル規模に達する見込みである。特にMENA地域は世界で最も急速に進化しているゲーム市場の一つであり、2028年までに市場規模は約70億米ドルに達すると予測されている。デジタルゲームはMENAで急速に成長しており、2023年から2028年の間のCAGRは12%と見込まれる。この成長の背景には、地方自治体のゲーム分野発展への注力、若くテクノロジーに精通した人口構成、文化的な受け入れとローカライズの進展、そしてeスポーツの台頭がある。
本レポートでは、成長するゲーム市場、多様な人口構成、ゲームやeスポーツ活動の拠点としての成長可能性を理由に、サウジアラビア (KSA)、アラブ首長国連邦 (UAE)、エジプト、ヨルダン、トルコの5つの主要国に焦点を当てている。これらの国々の現在の市場規模は合計で37億ドルであり、総ゲーミング人口は1億1,800万人、加重年平均成長率(CAGR)は8.2%と推定される。
各国ごとの市場概要は以下の通りである:
- サウジアラビア: 市場規模は18億ドル、2023〜2027年の予想CAGRは9%、ゲーム人口は2,500万人。
- UAE: 市場規模は5億ドル、2023〜2027年の予想CAGRは5%、ゲーム人口は700万人。
- トルコ: 市場規模は9億ドル、2023〜2027年の予想CAGRは7.5%、ゲーム人口は4,400万人。
- エジプト: 市場規模は4億ドル、2023〜2027年の予想CAGRは11%、ゲーム人口は4,000万人。
- ヨルダン: 市場規模は1億ドル、2023〜2027年の予想CAGRは4.7%、ゲーム人口は200万人。
市場参入の魅力度ランキングでは、政府の支援とゲーム分野への戦略政策が充実しているサウジアラビアとUAEが上位に位置し、トルコがそれに続く。サウジアラビアはMENA地域最大の市場規模と政府による手厚い支援により、ゲームおよびeスポーツ市場のトップである。特にサウジアラビアは、380億ドルもの投資によりゲーム産業の発展を目指しており、日本の専門知識やノウハウを取り込むための成熟したエコシステムが形成されつつある。
UAEもサウジアラビアと比べて顧客基盤は小さいものの、同様に強力な経済環境と成熟したゲーム市場エコシステムを持つことから2位にランク付けされている。トルコは経済の不安定さがあるものの成熟したエコシステムを持ち、MENA地域とヨーロッパの両方へのゲートウェイとして機能できる。エジプトは大規模な顧客基盤により市場の成長が見込まれる一方で、低いARPUとエコシステムの弱さが課題であることから4位となっている。ヨルダンは本格的な市場参入よりも、MENA地域の他市場をターゲットとしたアウトソーシングやJVが魅力的であると評価され5位となった。
日本のゲームおよびeスポーツ企業にとって、サウジアラビアは他国にはない魅力的な市場である。日本とサウジアラビアは堅固な貿易関係を築いており、ゲーム関連に多額の予算を投資している。また、UAEはWeb3技術の採用において最も先進的な国の一つであり、この分野での協力も期待される。トルコにはイスタンブールを中心とした活況を呈するゲーム開発エコシステムが存在し、日本企業との連携も進んでいる。エジプトは競争レベルが低いため、早期参入による市場シェア獲得のチャンスがある。ヨルダンはコスト効率の高い熟練した技術系労働力を有しており、アウトソーシングの拠点として活用できる。
ただし、MENA市場への参入にあたっては、規制上の制約(サウダイゼーション、エミラティゼーション、コンテンツ規制)、ローカライズの要求(アラビア語対応、文化的・宗教的配慮)、現地開発の専門性の限界、確立されたグローバル競合の存在、地政学的環境と経済の変動などのリスクを考慮する必要がある。
日本企業がMENA地域で成功するためには、普遍的な魅力を持つゲーム開発、戦略的なローカライズ、現地企業とのパートナーシップ、支払いシステムの適応などが重要となる。MENA地域では日本のゲーム産業の評価が高く、協力先として非常に魅力的であり、日本の専門知識とMENA地域の成長可能性の連携によって高い相乗効果が期待される。