[PR]

アメリカ独立系映画館の現在地──「State of the Art House 2025」レポート


映画館に多様な体験を求める観客が増える中、独立系映画館やアートハウスシアターの現状に焦点を当てた年次企画「State of the Art House 2025」が発表された。本企画は、Spotlight Cinema Networksの協賛のもと、Boxoffice ProとSpotlight Cinema Networks®の共同で実施されている。第4回目となる今年は、アートハウス映画館、映画祭、インディペンデント系配給会社のキーパーソンたちが、業界の現状と今後の展望について語った。

Spotlight Cinema NetworksのEVP(興行担当上級副社長)であるバーナデット・マッケイブ氏は、「本企画は、独立系映画界の関係者が互いに学び合う貴重な機会であり、今年もその一翼を担えることを嬉しく思う」と述べた。

昨年の好調から一転、不安定な2025年の幕開け

2024年夏、アートハウス・コンバージェンス(Art House Convergence)と映画祭アライアンス(Film Festival Alliance)は、米シカゴで初の「インディペンデント映画上映会議(IND/EX)」を共催した。イベントでは独立系映画界に楽観的なムードが漂っていたが、2025年に入ってからは不確実性が増しているという。

アートハウス・コンバージェンスのマネージングディレクター、ケイト・マーカム氏は、「2025年に入ってからは不安要素が増え、特にロサンゼルスで発生した大規模火災が映画制作コミュニティに深刻な影響を与えた。また、連邦助成金の不透明さも、非営利映画館だけでなく、映画制作者や協力団体、観客にまで波及している」と述べた。

一方で、映画祭の分野では観客の回帰傾向が顕著である。映画祭アライアンスのエグゼクティブディレクターであるバーバラ・ツイスト氏は、「ポスト・パンデミック期において、映画祭は高い回復力を示しており、多くのイベントで満席が続出している」と語る。さらに、若年層の参加も増加傾向にあり、映画上映だけでなく、トークイベントやワークショップへの関心も高まっているという。

若年層を惹きつける鍵は「懐かしさ」と「体験価値」

近年、アートハウス映画館の観客層に変化が見られ、若年層の比率が上昇している。これに対応するため、多くの劇場が旧作の再上映(リパートリー上映)を活用している。マーカム氏は、「若者の多くは過去の名作を映画館で観るという体験に魅力を感じており、それは私たちにとっても嬉しい現象だ」と語った。

また、配給会社マグノリア・ピクチャーズの配給・マーケティング責任者であるニール・ブロック氏も、若年層の重要性に触れ、「彼らは非常に選択眼が鋭く、SNSやコミュニティに根ざした情報発信が必要だ」と指摘する。2024年に同社が配給した『テルマ』は、世代を超えて成功を収めた好例であり、Alamo Drafthouseでは刺繍キット付きの上映会が話題となり、各地で完売が相次いだという。

劇場運営の工夫と今後の展望

2024年はホラーやジャンル映画が引き続き好調で、『The Substance』『Longlegs』『Heretic』といった作品が注目を集めた。また、『The Brutalist』の70mm上映といった特別フォーマットの試みも好評を博している。マーカム氏は「観客は“映画館でしか味わえない体験”を重視している」としつつも、2025年のヒット傾向については「読みにくい」として慎重な姿勢を見せた。

さらに、映画館や映画祭がチケット収入や助成金以外で収益を得る工夫も広がっている。映画トリビアナイトや読書会、手芸をしながら鑑賞する上映会など、地域とのつながりを強めるイベントが増加中である。若年層向けには、春・夏休みのキャンプやワークショップも開催されており、アートハウスが“学びの場”としても機能している。

映画祭においても、チケットや助成金のほか、スポンサー、寄付金、グッズ販売、出品料など多様な収入源を確保しており、地域経済への貢献を裏付ける「経済効果レポート」の作成も推奨されている。

映画祭と映画館、共に育てる観客との関係

常設施設を持たない映画祭にとっては、柔軟性が強みとなる。美術館や図書館、野外会場などを活用したイベントは、新たな観客層を呼び込む好機となっている。また、映画祭と地元映画館が連携することで、観客にとっての“映画体験”がより豊かになると、ツイスト氏は強調する。

最後に、ニール・ブロック氏は「映画を観客に届ける責任は配給側にもある。映画館にすべてを任せるのではなく、SNS広告やイベント協力など、共に手を取り合う姿勢が必要だ」と語った。

独立系映画界は依然として厳しい状況にあるが、映画館と映画祭、配給会社が連携しながら観客との接点を模索することで、文化的・経済的な価値を高めている。映画を通じた「共体験」の場は、これからも社会に必要とされ続けるに違いない。

ソース:State of the Art House 2025 – Boxoffice