異端の作家にして永遠のカルト・アイコン、ウィリアム・S・バロウズの素顔に迫る伝説のドキュメンタリー映画『バロウズ』(1983年)が、2025年5月9日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次公開される。日本での劇場公開は1987年以来、実に38年ぶりとなる。
バロウズは、アレン・ギンズバーグやジャック・ケルアックらとともにビート・ジェネレーションを代表する作家であり、『ジャンキー』『裸のランチ』『クィア』などで知られる。発禁騒動を巻き起こした過激な実験小説群や、言語を切り貼りする「カットアップ」の技法で文学の地平を切り拓いたほか、内縁の妻を射殺した事件や、晩年に画家・俳優としても活動しNIKEのCMに出演するなど、波乱と挑発に満ちた生涯を送った。
そんなバロウズの姿を5年にわたり追った本作『バロウズ』は、当時ニューヨーク大学映画学科の学生だったハワード・ブルックナー監督が卒業制作として着手。ジム・ジャームッシュ(音響)、トム・ディチロ(撮影)という後に著名となる映画人とともに完成させた。1983年に公開されたものの、その後長らく上映の機会が失われ“伝説”と化していたが、2011年にブルックナー監督の甥アーロン・ブルックナーがオリジナルプリントを発見し、デジタルリマスター化が実現。今回のリバイバル公開へとつながった。
映画では、アレン・ギンズバーグ、ルシアン・カー、ハーバート・ハンケといったビート作家仲間に加え、画家のフランシス・ベーコンやコラボレーターであるブライオン・ガイシンらも登場。バロウズ自身が「妻殺し」の真相や文学的信念について語るインタビュー、自作の朗読、家族との関係など、多角的な証言と記録映像によって、その複雑でミステリアスな人物像に肉迫する。バロウズを知らない世代にとっても、彼の存在がいかに多くのアーティスト──ビートルズ、デヴィッド・ボウイ、パティ・スミス、デヴィッド・クローネンバーグ、ガス・ヴァン・サント──に影響を与えてきたかが体感できる内容となっている。
今回解禁されたメインビジュアルには、ハットにスーツ姿の老バロウズが鋭い眼差しでこちらを見つめるポートレートを使用。「真実などない。すべて許されている。」という彼自身の言葉が添えられ、その異様な存在感を強調している。
また、長年にわたりバロウズ作品の翻訳を手がけてきた山形浩生氏は本作について以下のようにコメントしている。
「20世紀アメリカ文学の奇人ウィリアム・バロウズ。本作は本人の全面協力で作られた、伝記ドキュメンタリーの決定版だ。80年代初頭のバロウズ中興期を中心に、生家、ニューヨークの本拠地とカンザスの新居、さらに間もなく他界する兄や息子、妻の射殺の貴重な映像なども満載。彼をとりまく当時のニューヨーク・オルタナ文化圏も赤裸々に描かれる。そのうえサウンドはあのジム・ジャームッシュ!『クィア』で初めてバロウズを知った皆さんも、本作でぜひこの怪しいジジイの真価をご堪能あれ!」
なお、2024年にはルカ・グァダニーノ監督によるバロウズの著作『クィア』の映画化作品も公開されるなど、バロウズの再評価と再発見の機運が高まりつつある。現代のアーティストたちにもなお息づく“バロウズ・スピリット”を体感する貴重な機会となるだろう。
作品情報
映画『バロウズ』
監督:ハワード・ブルックナー
音響:ジム・ジャームッシュ
撮影:トム・ディチロ
配給:コピアポア・フィルム
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公開情報
2025年5月9日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー