【ニューヨーク発】2025年2月21日、米国のドナルド・トランプ大統領は「海外からの恐喝や不当な罰金・罰則から米国企業とイノベーターを守る」と題する大統領覚書を発表した。1974年通商法301条に基づき、フランスや英国など外国政府によるデジタルサービス税(DST)の調査再開や対抗措置を指示する内容であり、米国企業にとって不利な課税・規制措置への警戒を強めた格好である。
覚書では、フランス、オーストリア、イタリア、スペイン、トルコ、英国、EU、カナダ、メキシコなどの政府が2019年以降に導入したDSTについて、数十億ドル規模の負担を米国企業に課していると指摘。「米国の主権を侵害し、雇用を海外に流出させ、企業の国際競争力を制限している」とし、強い懸念を表明した。
このため、米国通商代表部(USTR)には以下の措置が指示された:
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フランス、オーストリア、イタリア、スペイン、トルコ、英国のDSTに関し、通商法301条調査の更新と、それに基づく対抗措置の検討。
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カナダに対しては米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づくパネル設置または調査開始の是非を判断。
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他国のDSTやデジタル規制の調査開始、または差別的税制の特定と対抗措置の勧告。
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米国企業が自由にサービス開発や表現活動を行える環境を損なう可能性のある外国政府の政策の調査。
また、財務長官には、こうした外国政府の課税が米国の租税条約に反するか否かの判断も求められている。
本覚書の発表は、デジタル貿易分野における米国の通商方針の転換点を示すものである。前政権のバイデン政権は、世界貿易機関(WTO)の電子商取引共同声明イニシアチブ(JSI)における「電子的送信への関税恒久禁止」や「越境データフローの自由化」などに対し消極的姿勢を示していた。トランプ政権がWTOで積極姿勢を取る可能性は低いと見られるが、米国政府が自国企業保護を優先する構えであることは明白である。
今回の政策は、グローバルに展開する米国のデジタル企業、特にNetflixのような映像配信サービスにとっても大きな意味を持つ。DSTによる税負担増は利益率の圧迫やサービス価格の引き上げにつながる可能性があるほか、各国の規制強化が市場アクセスの制限につながる懸念もある。加えて、規制対応に要するコストやリスクが増すことで、コンテンツ制作への投資にも影響が及ぶおそれがある。
米国が今後、DST導入国に対して関税などの対抗措置を講じれば、国際的な貿易摩擦が再燃する可能性もある。デジタル分野における覇権争いは、さらに激しさを増す局面を迎えている。