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トランプ政権、関税方針を撤回も…ハリウッドの苦境は「解放の日」以前から始まっていた


トランプ政権の関税政策の二転三転によって世界中が振り回されているが、映画産業にとっても他人事ではない。しかし、アメリカ映画産業の懸念はトランプの関税以外にもあり、それは長期的な傾向としてこれまで蓄積されたものであるとindirwireがコラムで指摘している。

ドナルド・トランプ米大統領は、国内外の市場の混乱と懸念を受けて、対抗関税政策を一時的に撤回した。しかし、ハリウッドにとっての本当の問題は、彼が唱えた「解放の日」よりもはるか以前から始まっていた。

米映画業界では、制作拠点が海外へ流出する傾向が加速している。その背景には、撮影コストの高騰がある。現在では、米国内で撮影するよりも、スタッフを海外に派遣したほうが安上がりになるケースもあるという。要因としては労働組合との交渉が挙げられる一方で、多くの関係者が税制改革の必要性を訴えている。アイルランドやハンガリーなどでは、映画予算に対して一定割合の税額控除が受けられ、数百万ドル規模の節税効果が見込まれる。

トランプ氏が提案した関税政策の皮肉な点は、それがむしろ米国内からの映画制作をさらに減少させる可能性が高く、アメリカ経済の他分野で期待されている国内回帰とは真逆の効果をもたらすという点である。専門誌の分析によれば、メディア企業はストリーミング課税や広告市場の不安、テーマパークの来場者数減少など、複合的な要因で打撃を受ける可能性がある。

制作現場においては、インディーズ作品から大手スタジオ作品に至るまで、撮影費の上昇がすでに問題化しており、関税がそれに拍車をかける恐れがある。なお、関税対象はサービスではなくモノであり、映画や番組自体はアメリカ最大級の「輸出品」である。そのため、直接的な打撃は限定的とみられていたが、中国側が報復措置としてアメリカ映画の公開禁止を検討していたとの報道もある。

結果として、トランプ政権は中国への関税を125%に引き上げたが、米ディズニー作品『サンダーボルツ』が中国での公開許可を得たこともあり、映画を巡る報復措置の可能性は低いとする分析もある。証券会社ウェドブッシュのアナリストによれば、「中国は自国の映画産業の強化に注力しているが、ハリウッド作品も引き続き貢献する」との見解を示している。

一方で、撮影に関わるさまざまな物資は海外から調達されているため、間接的なコスト上昇は避けられない。衣装に使う布地、撮影機材、カメラ、果てはロケ弁のコーヒー豆に至るまで、国際市場への依存度は高い。IMAXカメラのような特殊機材も、中国市場との関係を見直す必要が出てくる可能性がある。

「最大の問題は、あまりに不確実性が高すぎることだ」と語るのは、ウェドブッシュのアナリスト、アリシア・リース氏だ。関税の発動タイミングが読めず、コスチューム部門の責任者から企業経営層まで、誰もが先行きに不安を抱いているという。

インディーズ映画『サクラメント』をプロデュースしたエリック・B・フライシュマン氏も、既に多くのプロジェクトをアイルランドやスペイン北部など海外にシフトしており、「関税が本格的に導入されていれば、アメリカ国内に残された制作の最後の希望も失われていた」と語る。

カリフォルニア州では、ギャビン・ニューサム知事が撮影税額控除の予算を大幅に増額するなどの対策を打ち出しているが、フライシュマン氏は「申請手続きが煩雑で、抽選制のため一部の作品しか恩恵を受けられず、控除の対象も限られている」と不満を述べている。

結局のところ、関税以上に税制の抜本的見直しが必要であるとの声は根強い。リース氏も「根本的な税制改革がない限り、関税は単なる引き金に過ぎない」と指摘する。

関税方針の撤回により一時的な安堵感は広がっているが、ハリウッドにとってのダメージはすでに広がっており、回復には時間がかかる見通しである。