劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』は面白かった。昨年よりも楽しめた。人間ドラマの濃さといい、ミステリーとしての完成度といい、『名探偵コナン』の劇場版シリーズでも上位に来る面白さだと思う。
8年前の銃砲店強盗、雪崩事件、小五郎の動機の殺害、どんな関連が?
犯人を追いかけていた長野県警の大和敢助が雪崩に巻き込まれた10か月前。そして現在、野辺山の国立天文台で不審者を見たとの通報が。
一方、東京では雪崩事件を追いかけていた鮫谷という刑事が同期だった小五郎に電話をかけてくる。その翌日、鮫谷は何者かに銃殺される。小五郎は事件解決のために長野に向かうことを決め、コナンたちも長野に向かうことに。
大和警部が追っていた事件の犯人、鮫谷を殺した犯人、天文台の不審者、それらの事件にはつながりがあるのか、ここでミステリー的要素が複層的に展開していき、派手なアクションとともに展開されていく。
8年前に銃砲店を襲った強盗犯、その事件に巻き込まれた亡くなった娘の父親、山小屋で炭焼き小屋を営む大友という大男など、怪しい人物たちが登場してくる。それらの事件とこれらの人物のつながりをたどりながら、事件は意外な方向へと進んでいく。おりしも、刑事訴訟法の改正案が国会で議論されているという背景も重要で、公安も何やら暗躍している。複数の事情が入り乱れて、それぞれの思惑が交錯しながら物語が進んでいく。
この整理が鮮やかで非常にわかりやすい。結構、登場人物も多くて事情も入り組んでいるが、迷子になることなく見ることができる。このあたりは長いことミステリーを書いている脚本の櫻井武晴氏の手腕も大きいと思う。
今回の監督は、初登板の重原克也監督。これまでの劇場版シリーズでも演出を経験している人物だ。これが初監督らしい。いきなり100億円レベルの興行を期待される作品の監督を任されるというのは、すごいことだ。
今回は大人がカッコいい物語
今回の劇場版は、とにかく大人たちがカッコいい。まず小五郎がにぎやかし要因でもなければ、お笑い担当でもなく、ガチで探偵している。眠らないし。銃の名手であることも見せてくれ、事件解決に本気で貢献している。
そして、長野県警の3人、諸伏高明、大和敢助、上原由衣の3人も素敵だった。刑事としての矜持をもって捜査にあたる職業人としてのプライドが垣間見えてすごくいい。
被害者の娘の父親の船久保さんもいい味を出している。大友さんも良かった。ちゃんと大人が大人している作品だった。
この人間ドラマも、コナンたち、小五郎と鮫谷、長野県警3人の関係に公安の古谷零や東京地検の長谷部という検事に、映画オリジナルの被害者たちの物語と要素は多いけど、すごく上手く整理されている。長野県警3人の関係性など、これまでの作品を追いかけていなくてもわかるように描写されていた。予習してから見に行く面白さはあったんだろうが、全然予習していなくても楽しめるようにきちんと整理されている。このあたりも職人芸だなと思った。
毛利家のテレビのリモコンが見当たらないというくだりもなんかにやりとさせられるというか、いいメタファーになっていたと思う。最後に出てくるのは、これでいつもの「眠りの小五郎」に戻るということか。
蘭姉ちゃんの格闘シーンもあるし、アクション的な盛りだくさん。このシリーズはまだまだ進化するのだなと思わせてくれる完成度だった。
ちなみに、この映画でフィーチャーされる司法取引は、2018年に刑事訴訟法が改正され、日本でも導入されている。