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『教皇選挙』映画レビュー|エドワード・ベルガーが描く、古さと新しさが激突するコンクラーベの権力闘争と信仰の行方


エドワード・ベルガー監督の『教皇選挙』は噂通りに素晴らしい作品だった。重厚さ漂う見ごたえあるドラマは久しぶりに見たような気がする。

本作はタイトル通りにカトリックのローマ教皇を選ぶ選挙「コンクラーベ」を描く物語。徹底して秘密のベールに包まれているこの選挙は、有名だけれど内実は知られていないものだから、興味津々な人は多いだろう。

ローマ教皇が突然亡くなり、新たな教皇を選ぶコンクラーベを取り仕切ることになったローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)を主人公として、教会内に渦巻く複雑な人間模様と権謀術数、古い価値観と新しい価値観が激突する様が描かれていく。

映像美の宝庫

本作は、まずルックが良い。構図も大変に美しいものばかりで宗教画のような荘厳さを持っている。撮影監督はフランス人のステファーヌ・フォンテーヌ。『真夜中のピアニスト』や『君と歩く世界』といった作品を手掛けてきた人でセザール賞の撮影賞も受賞経験がある名手だ。

白い傘を指して中庭を一斉に歩いているシーンなどは本当に美しいカットだ。その他、教会が爆破された時のスローモーション撮影は、神秘的な魅力を称えていて、歴史の1ページを見ているかのようなそんな雰囲気にさせられる。何気に亀の撮り方もいいと思う。

撮影場所は本当にシスティーナ礼拝堂ではなくセットだと思うが、プロダクションデザインの完成度も非常に高い。どこを切り取っても絵画的になるような、絵になる場所ばかりだった。

古さと新しさ

システィーナ礼拝堂のような古く伝統的な場所で、集められた枢機卿たちは、電子タバコを吸っていたり、スマートフォンをいじったりしている。しかも、荘厳な礼拝服を身にまとって。このギャップに古い世界に新しいものが入り込んでいる様子がうかがえる。

これは絵的に面白いというだけにとどまらず、作品全体を象徴する。ナイジェリア人のアディエミ枢機卿が、新たな教皇の有力候補となるが、保守派の白人枢機卿トランブレが揺さぶる工作を仕掛けていたりする。リベラルな考えのベリーニ枢機卿とゴリゴリの保守派テデスコ枢機卿が対立関係にあったりするなど、カトリック教会内も古いものと新しいものが混在しているのだ。

そんな中、超然とした存在感を放つのがメキシコ出身でアフガニスタンのカブールの教会から来たベニテス枢機卿だ。ベニテスはインターセックス(DSD)の存在であり子宮を身に宿したまま司祭の仕事をしている。そのことを教会は受け入れることができるのか、という問いも作品の中で非常に重要なものとして描かれている。

礼拝堂の外では、テロが起きていたりなど不穏な空気が流れる中、外部の情報を一切シャットアウトして行われるコンクラーベ。信仰とは何か、そして人間の営みにおいて、神はどう作用するのか。様々なことを考えさせてくれる良作である。

こういう映画がヒットするのはいいことだなと思う。