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NHK『地震のあとで』最終話「続・かえるくん、東京を救う」徹底レビュー|「忘れること」と震災後の生き方、のんがかえるくん役に


NHKのドラマ『地震のあと』の最終話は「続・かえるくん、東京を救う」だ。「続」とある通り、村上春樹の「かえるくん、東京を救う」の続編という位置づけであり、小説をストレートに映像化したものではない。
 

「かえるくん、東京を救う」あらすじ

「かえるくん、東京を救う」は、こんなお話だ。

信用金庫に勤める片桐という真面目な男が、あるひ巨大なかえるくんに出会う。とつぜん、アパートにやってきたかえるくんを片桐は返済の交渉に来た「クミの関係者」だと思うが、そうではないとかえるくんは言う。東京に大地震を起こそうとしている地下のみみずくんと戦うので片桐に協力してほしいと言うのだ。

しかし、かたぎりは銃撃されてしまい、気がついたらかえるくんとの約束の日を超えていた。しかし、地震は起きなかった。かえるくんはみみずくんに勝ったらしい。

ドラマは30年後が舞台

そして、今回の「続・かえるくん、東京を救う」では、30年後、つまり2025年の今が舞台だ。片桐(佐藤浩市)は、かつて自分の勤めていた信用金庫があったビルの地下駐車場の警備員をやっている。漫画喫茶に寝泊まりしており、ぴちっといつもスーツを着て出勤する。帰りには、歌舞伎町のゴミ拾いをやっている。

そんな彼のもとにかえるくんが現れる。しかし、片桐はかえるくんに関する記憶を失っている。かえるくんは、再びみみずくんが地震を起こそうとしているので、協力してほしいと片桐に言う。覚えていないものの、かえるくんが見えるのは自分だけのようで、素直に協力することになる片桐。

みみずくんは、憎しみを食べて大きくなるという。片桐はその戦いに赴くなかで、自分が信用金庫時代に融資を取りやめるなどで、人々を苦しませたことに自責の念を感じているのか、怨念の声を聞く。その具現化した存在として「謎の男(錦戸亮)」が出てくるのだが、その彼が誰なのかも片桐は思い出せない。

非現実の世界に囚われた片桐だが、かえるくんとの約束を果たすために、現実に「帰りたい」と言い、再び現実でかえるくんの勝利を見届けて帰還。いつものように歌舞伎町のゴミ拾いをするのだった。
 

人は忘れることで生きていける

忘れる、というのが一つのテーマとなった物語だった。片桐は融資の件で不幸に追いやった人々のことを覚えていない。そして、かえるくんのことも覚えていない。

忘れないと生きていけなかったんだねとある人が言う。

実際、人はあらゆることを覚えて生きていけるわけではない。人は忘れるから前を向けるというセリフも出てくるが、忘れるというのは、一種の防衛装置のようなものだと思う。

これを震災の記憶の風化、というポイントを重ね合わせているのが本作のユニークさと言えるだろう。つらい災害の記憶は忘れてはいけない、その教訓を引き継がねばならないと人は言う。しかし、辛い感情を抱えたままで人は前を向けるだろうか。ある程度忘れないことには、人生を取り戻せないのではないだろうか。

「地震のあと」も人生は続く。「地震のあと」を生きねばならないとということは、忘れることもあるということなんだろう。

忘れてはいけないことと、忘れてしまいたいこと、バランスを取るのは難しいけど、人が生きていくためには大切な視点ではないかと思う。

 

かえるくん役はのん

かえるくんをどう表現するのかなと思っていたら、着ぐるみだった。着ぐるみのかえるくんが漫画喫茶にいたりするのは大変にシュールな光景である。そして、演じるのはのん。着ぐるみの中には入っていないだろうが、意外と合っていたのではないかと思う。こういう奇妙な存在を演じるのがはまる人になってきた。

 

「かえるくん、東京を救う」2度目の映像化

村上春樹の「かえるくん、東京を救う」が映像化されるのは、これが初めてではない。フランスのアニメーション映画『めくらやなぎと眠る女』は村上春樹の短編をいくつかつなぎ合わせて作られた作品だが、その一つに「かえるくん」のエピソードが採用されている。日本では2024年に公開されており、第一回新潟国際アニメーション映画祭のグランプリにも輝いている。ちなみに、同作は『地震のあとで』第一話の「UFOが釧路に降りる」も採用している。

アニメーション作品だったのので、かえるくんというシュールな存在も浮くことがなかった。全体的に白日夢のような映像を作っているのもある。

比較して、実写化の今回はどこまでシュールさにリアリティを与えられるのかなと思って見ていたのだけど、案外違和感がない。歌舞伎町なら、ああいう変な存在がいてもおかしくない気もするし。

「かえるくん、東京を救う」は新海誠監督の『すずめの戸締まり』にも影響を与えていると言われる。地下のミミズというアイディアが共通している。この作品も含めれば3回映像になっていると言えるが、実写化はこれが初めてだ。実写よりもアニメーションの方がやりやすい題材だろうが、ドラマの演出陣は上手くやったなと思う。現代の本物の街を舞台にしていても、どこか嘘くさくて、でも心の心象風景はリアルな気がする。そんな作品に仕上がっていた。

このドラマシリーズは全体的に、日本のテレビドラマとしては意欲的な挑戦が多かったと思う。セリフだけでなく映像で見せていく姿勢があったし、こうした結論の曖昧な物語をやれているのも珍しい。こういうドラマが増えていくと良いなと思う。
 

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登場人物
片桐(佐藤浩市)
謎の男(錦戸亮)
山賀(津田寛治)
かえるくん(のん)