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阿部寛主演『キャスター』第3話レビュー|道枝駿佑&のんが魅せた!STAP細胞騒動とは異なる奇跡の再現


TBS日曜劇場『キャスター』第3話「iL細胞は存在します!美しき科学者の秘密を暴け!」は、かの有名なSTAP細胞の論文不正の顛末を題材にしたエピソードだ。しかし、結末は異なる。その異なり方が現実への皮肉とも、期待とも取れる。

万能細胞「IL細胞」の発見を掲げた篠宮楓教授(のん)は、進藤壮一(阿部寛)ら報道陣に対し、純粋な科学への情熱を見せる。直せない病気のない未来を目指すというそのビジョンを、曇りのない眼で本当にそんな未来が来ると信じているようだ。

しかし、SNS上に浮上した不正疑惑、論文の撤回、研究室の混乱、そして研究者の自殺未遂と、物語は急速に夢から悪夢へと変貌していく。

本橋の先輩が不正に手を染め自殺未遂?

本橋悠介(道枝駿佑)の大学時代の先輩、栗林はそのIL細胞研究チームの一員だった縁でニュースゲートは独占取材を研究室で行うことに成功。しかし、進藤はそこであるメモが気になったようだ。折しも、SNSで黒猫を名乗るアカウントがIL細胞の論文のデータが改竄されていると指摘し始め、世の中がざわつき始めていた。そして、進藤は独断で黒猫に接触して、篠宮のインタビュー後にそれを放送するという行為に出る。

これに本橋が激昂するが、進藤はジャーナリストとして、本橋に「今、お前は何の仕事をしているんだ」と厳しく問いかける。単なる共感ではなく、真実を追求することこそが報道の使命であると突きつけたその直後、科学雑誌がIL細胞の論文取り下げを発表。進藤の読みが正しいことが証明された。

しかも、その後栗林が自殺未遂を起こす。不正データを託された本橋は暴走し、研究室に不正に侵入するが、そのことで謹慎処分を受けることになってしまう。

篠宮たちの上司に当たる小野寺教授が不正を指示していた。その目的は研究費だ。こうでもしないと研究費は降りないんだと彼女は言う。篠宮は不正を知らなかったというが、それは本当なのか、視聴者にはわからない。

 

科学の発展を信じる心と研究費という現実

篠宮は最終的に小野寺教授の不正を告発するとニュースゲートに頼み込みに来る。進藤はその時、こう尋ねた。「最初にインタビューした時、あなたの目はIL細胞の存在を疑っていなかった。それはなぜか」と。篠宮は、教授と栗林の3人で一度だけ青く光る細胞
(IL細胞細胞のこと)を見たという。だからあるんだと信じているのだ。今は見つかっていなくてもいつかは見つけることができることを、まだ諦めていないのだ。

進藤たちは、この不正の証拠を示すのみならず、番組内でアメリカと日本の研究費の雲泥の差についても言及。日本の研究者がお金がないから、このような不正に手を染めてしまうのではと根本的な問題提起をする番組内容にしていた。

そして、篠宮は、黒猫の正体であったノーベル賞受賞者の高坂教授のもとでIL細胞の研究を続けることになった。なんと小野寺教授もだ。高坂氏は、理論的にはIL細胞はあり得る、この検証の実験は世界中でやってほしいと願っているという。

そして、最終的についに本物のIL細胞が再現されるに至った。しかし、物語はそこに留まらない。再現されたIL細胞の特許がアメリカ企業に売却されるという現実が突きつけられる。理想のためには資金が不可欠であり、科学もまた市場原理から逃れられないのだ。篠宮と小野寺でさえ寝耳に水の売却劇が、科学者たちの無力さを際立たせた。

現実にはドラマのようにはならなかったが・・・

本エピソードが鮮やかなのは、このドラマが現実世界を意識している点だ。現実の日本では、STAP細胞騒動で「夢の万能細胞」は潰えた。iPS細胞を発見した山中伸弥教授と、小保方晴子氏が手を取り合う未来は訪れなかった。研究不正、資金不足、メディアスクラム、科学者の孤独――それらは『キャスター』の世界と驚くほど重なって見える。

現実と異なり、ドラマでは篠宮と高坂教授(高橋英樹)が手を取り合い、真の科学の理想に到達する。しかし、その一瞬の「一致団結」は、現実社会を知る視聴者にとって、むしろ痛切な切なさを呼び起こすものだろう。どうして現実にはこうできなかったのかと。
 

道枝駿佑とのんの好演

本作の物語の主人公と言える存在は本橋だ。彼が本当の意味でジャーナリストとして成長する様を描いたエピソードとなった。栗林を個人的に知っているから、彼が不正するはずないと最初は進藤に反発したが、最後は不正の根源を突き止めることを諦めなかった。道枝駿佑はいい芝居をしたと思う。熱さと脆さが同居する若者の危うさを体現していた。

この3話は前2話よりも面白かった。のんもはまり役で、彼女はこうしたエキセントリックな部分がある役柄を自然体で体現できる。彼女でないと成立しなかったかもしれない。

登場人物
進藤 壮一(阿部寛)
崎久保 華(永野芽郁)
本橋 悠介(道枝駿佑)
小池 奈美(月城かなと)
尾野 順也(木村達成)
チェ・ジェソン(キム・ムジュン)
戸山 紗矢(佐々木舞香)
鍋田 雅子(ヒコロヒー)
松原 哲(山口馬木也)
崎久保 由美(黒沢あすか)
横尾 すみれ(堀越麗禾)
進藤 壮一 (幼少期)(馬場律樹)
羽生 剛(北大路欣也) (特別出演)
尾崎 正尚(谷田 歩)
羽生 真一(内村 遥)
滝本 真司(加藤晴彦)
南 亮平(加治将樹)
梶原 広大(玉置玲央)
安藤 恵梨香(菊池亜希子)
市之瀬 咲子(宮澤エマ)
海馬 浩司(岡部たかし)
山井 和之(音尾琢真)
国定 義雄(高橋英樹)