作家・ミュージシャン・映画評論家として異彩を放つ中原昌也の最新小説集『焼死体たちの革命の夜』が、2025年4月30日に河出書房新社より刊行された。病後初の刊行作として注目を集める本作は、2016年から2023年までに執筆された短編9篇を収録した一冊である。
ベックやソニック・ユースと共演した異才が放つ文学の現在地
中原昌也は1980年代後半から、「暴力温泉芸者」や「hair stylistics」名義でノイズミュージシャンとして活動。過剰なサウンドとシュールなアートワークで国内外の音楽ファンから支持を受け、ソニック・ユースやベックのフロントアクトも務めた。また、映画評論家としても「映画秘宝」などで活躍し、異端の審美眼と過激な批評精神で知られる存在である。
1998年には文芸誌「文藝」での連載をまとめた『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』で小説家デビュー。以降、2001年に『あらゆる場所に花束が……』で三島由紀夫賞、2006年には『名もなき孤児たちの墓』で野間文芸新人賞、2008年には『中原昌也 作業日誌』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞するなど、文学界でも確固たる評価を得てきた。
脳梗塞・肺炎を経て“虚無”を描き切る圧巻の短編集
中原は2023年1月、糖尿病の合併症による脳梗塞と肺炎で生死の淵をさまよった。後遺症として左半身麻痺や視覚障害を抱えるものの、奇跡的な回復を遂げて執筆を再開。2024年には病前と病後の記録を収めた異色のエッセイ集『偉大な作家生活には病院生活が必要だ』が刊行され、発売直後に重版となる話題を呼んだ。
今回の『焼死体たちの革命の夜』は、その復帰第2作目となる。収録された短編はすべて病前に書かれたもので、現実と幻想、絶望と笑いが交錯する独自の文体と世界観が全編にわたって貫かれている。
表題作「焼死体たちの革命の夜」では、ニュースで報じられる死から連想される焼死体、動物、ボロ布というイメージの連鎖が描かれ、虚無のなかにある微かな存在感が詩的に表現される。翻訳家・岸本佐知子は本書に対し、「虚無が虚無を支え合ってできたアーチの向こうから、目眩がするほどまばゆい虚無があらわれる」と評している。
文芸誌・カルチャー誌に掲載された9篇を収録
本書には以下の短編が収録されている。
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「わたしは花を買いにいく」(文藝 2016年冬季号)
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「悲しみの遺言状」(文學界 2016年11月号)
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「劣情の珍獣大集合」(文藝 2017年夏季号)
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「あの農場には二度と」(文藝 2018年夏季号)
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「角田の実家で」(文藝 2020年夏季号)
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「次の政権も皆で見なかったことにした」(文藝 2021年春季号)
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「げにも女々しき名人芸」(ILLUMINATIONS創刊号)
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「焼死体たちの革命の夜」(文藝 2021年冬季号)
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「久美のため息」(FEU創刊号)
いずれも既存の文学的枠組みを逸脱しながらも、読む者に強烈な印象を残す作品ばかりである。
書籍情報
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書名:焼死体たちの革命の夜
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著者:中原昌也
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仕様:四六判/上製/224ページ
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発売日:2025年4月30日
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定価:税込3,256円(本体2,960円)
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装丁:前田晃伸
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ISBN:978-4-309-03960-2
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URL:https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309039602/
※電子書籍版も近日発売予定。