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映画『エミリア・ペレス』レビュー:変容する魂の傑作ミュージカル。ゾーイ・サルダナら俳優陣の熱演にも注目


エミリア・ペレスは確かに傑作だった。ミュージカル映画のパワーと芸術的なレイアウトと光、役者たちの見事な存在感。物語は人間が変わるということについての深い洞察がある。

本作はトランスジェンダー女性の変化を描くものだ。男性の身体をもって生まれ、マフィアのボスとして生きざるをえなかった人物が、本当の自分として生きるため、家族を捨て、死んだことにして女性へと生きなおす。

本作のユニークな点は、変わったのは外見だけではないという点。外見が変わり、本当の自分として生きられると中身も変化していくということが描かれているところだ。それはゾーイ・サルダナ演じる弁護士のミュージカルパートで歌詞として直接に言及される。

エミリア・ペレスポスター

マフィアからNPOへ

悪徳政治家の弁護して勝訴するも虚しさを覚えている弁護士のリタ(ゾーイ・サルダナ)。彼女は突如、何者かに拉致される。拉致を指示したのは、メキシコの麻薬カルテルを仕切るボス・マニタス。マニタスはリタに女性としての人生を用意してほしいと依頼を受ける。自分を死んだことにして、制適合手術をして生まれかわり、本当の人生を生きたいのだとマニタスは言う。そして、妻と子供にも極秘で手術を受け、死んだことにして、マニタスはエミリア(カルラ・ソフィア・ガスコン)として人生を再出発させることになる。

そして4年後、リタは弁護士としてキャリアを順調に伸ばしており人生を謳歌している。そんな彼女のもとに再びエミリアが現れる。エミリアは、やはり家族と一緒に暮らしたいと言い、マニタスのいとことして元妻ジェシー(セレーナ・ゴメス)と子供たちの前に現れる。

そして、エミリアはかつてマフィアとして働いた悪事とそれがメキシコという国を荒廃させてことに心を痛め、マフィアに誘拐されて行方不明者を持つ家族のために活動するNPO法人をリタと一緒に立ち上げる。

しかし、ジェシーは他に男を作り、家族は再びバラバラになってしまう。そのことからエミリアには危険が及ぶようになっていく。

エミリアの変化は外見以上に中身の変化が著しい。マフィア時代は、リタを拉致して自分の目標を達成しようとしているくらいに強引な人物だったが、それが人助けのNPO活動をするようになる。この変化をどう感じるか。外見に変化、ジェンダーのトランスがその変化を引き起こしたと言えるのか、それとも、彼女は元々そういう人物だったがマフィアのボスとしてそういう生き方が許されなかったのか。

人間はどう変化しうるかについて、あるいは変化とは本来の自分の表出なのか、外から見える自分と内なる自分は異なる。その変化について深く考え抜かれた作品だった。

3人の女優のパフォーマンスは素晴らしい

本作の中心となるのは3人の女優だ。弁護士リタを演じるのはゾーイ・サルダナ。彼女のベストパフォーマンスであることは間違いないだろう。母語とも言えるスペイン語主体の芝居であることもあってか、はつらつと演じているし、歌唱シーンも見事。エミリア役のカルラ・ソフィア・ガスコンの2つの生を生きる存在感も素晴らしい。セレーナ・ゴメスの歌唱シーンはスター性がすごい。

アカデミー賞ではカルラ・ソフィア・ガスコンが主演女優賞に、ゾーイ・サルダナが助演女優賞にノミネートしていた。だが、スクリーンタイムとしてはゾーイ・サルダナの多いらしい。実際、これはこの2人が主演というのが正確だろう。特に前半は、リタに起きる出来事を描いており、エミリアはリタの人生に訪れる変化のきっかけという位置づけと言える。

後半になるとエミリアのパートが増えていき、彼女の変化と葛藤が中心を占めるようになるが、実質リタとエミリア、2人の女性の変化と生き様が描かれた内容で、ダブル主人公の作品だ。

映像はさすがの美しさだし、ミュージカルパフォーマンスのレベルも高い。芸術的にも高いレベルで社会性に富み、娯楽性も保持していて、見事な作品だ。

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