TBS日曜劇場『キャスター』第6話「スクープと死」は、臓器移植をめぐる報道と個人の救済の間で引き裂かれるキャスター・崎久保華(永野芽郁)の葛藤を軸に、視聴者に「報道とは何のためにあるのか」という根源的な問いを突きつけた。
物語は、藤井真弓(中村アン)がキャスター・崎久保に訴える場面から始まる。脳死となった夫の肺を、肺高血圧症を患う娘ユキノに移植したいと懇願するが、法的な制約によりそれは叶わない。目の前で助けられる命があるにもかかわらず、制度がそれを阻む理不尽さに涙する藤井の姿は、見る者の心を強く揺さぶる。
報道局に戻り、崎久保と進藤壮一(阿部寛)の対立が浮き彫りとなる。進藤は法律の枠内での行動を重視し、ルールを曲げることは許されないという信念を貫く。一方で、崎久保は「法律を守るために生きているわけじゃない」と反論し、人間として目の前の命を救いたいと願う。この議論は、現代社会における正義と制度、倫理と現実の乖離を象徴している。
やがて事態はさらに複雑化する。藤井が自身に持病があると偽っていたことが週刊誌で報じられ、世論は一転して彼女を非難し始める。
崎久保は彼女とユキノが血縁関係にないこと、そして海外で臓器移植を画策していたことを知る。藤井の行動は「母の愛」か「犯罪」かという二項対立にさらされることになる。
ここで浮上するのが「ひまわりネット」という組織の存在である。健康診断を装い、密かにドナーを募るこの団体は、崎久保の過去ともつながる。かつてこの団体が関わる臓器売買のスクープ報道によって、彼女の姉は正規の手術の機会を奪われ、命を落とした。進藤は「貧しい人の身体から臓器を取るのは犯罪」と断言するが、崎久保は「今目の前で苦しむ母親を見捨てられない」と、現実の中での最善を模索する。
終盤、藤井が海外移植を決行しようとしていることを知り、崎久保は彼女を追いかける。成田と見せかけて羽田から出国させるという一手は、報道の人間としてではなく、一人の人間として藤井親子を守ろうとする彼女の決意の表れである。
そして、あくまで事実を追い、スクープを取ることに執着する進藤が、藤井親子の行き先に先回りするというラスト。報道と正義の狭間で揺れる者、冷徹な事実の提示に徹する者、そのどちらが「正しい」のかは語られない。しかし、明らかなのは、このドラマが「報道とは誰のためにあるのか」という視点を、視聴者自身に委ねているということだ。
『キャスター』第6話は、医療制度、報道倫理、個人の信念が複雑に絡み合う中で、命の重みと報道の責任を真正面から描き切った。今なお語られることの少ない臓器移植と報道の関係を正面から扱った本作は、日曜劇場の枠を超え、現代社会に一石を投じる作品となっている。
登場人物
進藤 壮一(阿部寛)
崎久保 華(永野芽郁)
本橋 悠介(道枝駿佑)
小池 奈美(月城かなと)
尾野 順也(木村達成)
チェ・ジェソン(キム・ムジュン)
戸山 紗矢(佐々木舞香)
鍋田 雅子(ヒコロヒー)
松原 哲(山口馬木也)
崎久保 由美(黒沢あすか)
横尾 すみれ(堀越麗禾)
進藤 壮一 (幼少期)(馬場律樹)
羽生 剛(北大路欣也) (特別出演)
尾崎 正尚(谷田 歩)
羽生 真一(内村 遥)
滝本 真司(加藤晴彦)
南 亮平(加治将樹)
梶原 広大(玉置玲央)
安藤 恵梨香(菊池亜希子)
市之瀬 咲子(宮澤エマ)
海馬 浩司(岡部たかし)
山井 和之(音尾琢真)
国定 義雄(高橋英樹)
深沢 武志(新納慎也)