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安達祐実主演『夫よ、死んでくれないか』第1話レビュー──「死ねばいいのに」の裏にあるリアルな絶望と願望


テレビ東京の新ドラマ『夫よ、死んでくれないか』、第1話のタイトルは衝撃的な「私、夫を殺しちゃった…!」。主演・安達祐実が演じるのは、表向きは仕事も結婚も順風満帆に見えるが、内心では深い不満と孤独を抱えた女性・麻矢だ。本作は、そんな麻矢を中心に、三者三様の“壊れた夫婦関係”を描きながら、「夫に死んでほしい」と願ってしまう女性たちの複雑な心情を、ブラックユーモアを交えて浮き彫りにする。

「幸せな結婚」の崩壊──3人の女たちの夫婦事情

物語は、麻矢の結婚式の回想から始まる。幸せそうな笑顔と「その幸せはいつしか後悔へと変わった」というナレーションが早くも波乱を予感させる。

麻矢(安達祐実)は、ショッピングモールのプレゼンを成功させるほどのやり手だが、私生活は崩壊寸前。夫・光博(竹財輝之助)は妻の仕事への理解が乏しく、家事や法事などへの協力もなく、夫婦関係は冷え切っている。かつては惹かれ合い、結婚に至った2人が、いまでは会話もままならない状態にある。

一方、専業主婦の友里香(磯山さやか)は、暴言と暴力が日常になった夫・哲也(塚本高史)との暮らしに心身ともに疲弊している。もはや生理的にも受けつけなくなっているが、専業主婦ゆえに離婚もできず、出口のない日々に追い詰められている。

ライターの璃子(相武紗季)は、一見理想的な愛妻家の夫・弘毅(高橋光臣)と暮らしているが、その実態は過剰な束縛と所有欲に支配された関係である。10分ごとに送られるメールを強要されるなど、息苦しさは限界に達している。

「夫が死ねば幸せになれる」──ブラックな共感の共有

この3人の女性たちは大学時代からの親友であり、バーで酒を交わすシーンでは、夫への不満を吐露しあいながら、冗談交じりに「一番の幸せは、夫がお金を残して死ぬこと」と言い合う。ここにあるのは、決して単なるブラックジョークではない。現代の女性たちが直面する家庭内の不均衡や、役割の固定観念から来る抑圧が根底にある。

「夫を殺しちゃった」から始まる予想外の展開

物語が一気に加速するのは、友里香が「夫を殺しちゃった」と麻矢たちに電話をかける場面からだ。現場に駆けつけると、哲也は確かに倒れている。しかし息はある。救急車を呼ばず、殺人を隠そうとする友里香に対し、璃子は協力を申し出る。結局、哲也が記憶喪失になるという“奇跡”が起き、未遂に終わるものの、この一件が3人の関係を微妙に変化させていく。

その帰り道、璃子は唐突に「私が夫を殺すと言ったら手伝ってくれる?」と問いかける。笑って流す麻矢と友里香。だが、この問いかけは、今後の展開の伏線として不穏な空気を残す。

社会の理不尽と女たちの本音

ドラマは、家庭内の葛藤にとどまらず、職場での理不尽も描く。麻矢の企画が却下されたのは、妊娠の可能性があるからという、暗黙の性差別が背景にある。3年がかりのプロジェクトを任せるには「女は不安だ」と言わんばかりの構造は、現代の働く女性にとって他人事ではないだろう。

失踪した夫と「死ねばいいのに」という願い

そしてクライマックスでは、麻矢の夫・光博が失踪。最後に会ったとき、麻矢は「死ねばいいのに」と言ってしまっていた。夫の不在を前に、不敵な笑みを浮かべる麻矢の姿が画面に焼き付く。このラストショットが、本作の持つブラックコメディとしての色合いと、リアルな絶望の描写を強烈に象徴している。

総評──「結婚」の理想と現実のギャップに鋭く迫る問題作

『夫よ、死んでくれないか』は、単なるスキャンダラスなタイトル以上の中身を持つ作品だ。結婚生活の理想と現実、女性たちの孤独や不満を、エンタメの枠を逸脱しない絶妙なバランスで描き出している。安達祐実、相武紗季、磯山さやかの演技も秀逸で、それぞれのキャラクターの切実さと可笑しみがリアルに迫ってくる。

第1話の時点で、夫婦の崩壊を巡るブラックな連帯と反乱の気配が濃厚に漂っている。今後、彼女たちがどのように「死んでほしい夫」と向き合っていくのか。その行方から目が離せない。

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