第78回カンヌ国際映画祭で、イランのジャファル・パナヒ監督の『It Was Just an Accident』(邦題未定)がパルムドール(最高賞)を受賞した。多くの関係者にとって意外な結果となったこの選考について、審査委員長を務めたジュリエット・ビノシュ氏が24日の記者会見で詳細を語った。
「抵抗と生存の物語」として評価
ビノシュ氏は受賞理由について、「この映画は抵抗と生存の感情から生まれており、それは今日絶対に必要なものである」と説明した。アカデミー賞受賞女優でもある同氏は、「非常に人間的でありながら同時に政治的でもある。彼(パナヒ監督)は複雑な国の出身だからだ。この映画を観た時、際立っていた」と評価の背景を明かした。
パナヒ監督の苦難の歴史と芸術的評価
パナヒ監督は過去にもカンヌ映画祭で高い評価を受けており、1995年にデビュー作『白い風船』でカメラドール賞、2003年に『クリムゾン・ゴールド』である視点部門の審査員賞を受賞している。2018年には『ある女優の不在』でコンペティション部門に参加した実績もある。
同監督はイランで2度の不当な収監を経験しており、2023年に釈放されたばかりだった。このような背景について、ビノシュ氏は「監督が経験してきたことを考えると、(彼を)称賛することは興奮に値する」と語った。
作品の社会的メッセージ
『It Was Just an Accident』は、不当に告発された労働者階級の人々が、自分たちを拷問し罵倒した看守に復讐を求める物語である。ビノシュ氏は作品の意義について、「芸術は常に勝利する。人間的なものは常に勝利する」と強調した。
同氏はさらに、「俳優、監督、そして芸術に携わる人々として、我々は重要な問題について公の場で発言し、世界を変革することができる」と述べ、芸術の社会的役割について言及した。
審査過程について
審査員の一人であるジェレミー・ストロング氏(アカデミー賞ノミネート俳優)は、11日間の審査過程を「シャンパン付きのコンクラーベのようだった」とユーモラスに表現した。
ストロング氏は真剣なトーンで、「我々は本質的に超越的な作品である映画を表彰したかった」と選考基準を説明。「ジュリエットが世界に優しさをもたらすことについて話し、デ・ニーロはファシストは芸術を恐れるべきだと話した。これらの選択はそうした原則を反映している」と付け加えた。
今回のパルムドール受賞により、パナヒ監督は国際的な映画界での地位をさらに確固たるものとし、困難な状況下でも芸術創作を続ける映画作家への注目が集まることとなった。