元乃木坂46・高山一実原作の話題作、配信で新たなファン層開拓へ
元「乃木坂46」メンバーでタレントの高山一実氏が現役アイドル時代に執筆した30万部ベストセラー小説を原作とする劇場アニメ「トラペジウム」が、5月30日からAmazonプライムビデオで見放題独占配信を開始した。同作品は劇場公開時に興行収入こそ2億円前後にとどまったものの、熱狂的なファンを生み出す「議論型ヒット」として大きな注目を集めている。
小粒ながら温度の高い話題作
「トラペジウム」は2024年5月の劇場公開時、興行通信社週末ランキング最高10位という控えめなスタートを切った。しかし、その後の展開は異例の盛り上がりを見せている。Blu-ray/DVDは発売初週で3,800枚超を記録し映画ソフト週間1位を獲得、Amazonでは★4.9という高評価を維持している。
映画レビューサイト「Filmarks」では、レビュー数1,100件超・平均★3.6を記録し、公開から1年が経過した現在もなお新しいレビューが投稿され続けるという異例の現象が起きている。これは作品が持つ独特の魅力が、時間をかけて口コミで広がっていることを示している。
三つの人気要因が生んだクロスオーバーヒット
この作品の人気には三つの明確な要因がある。
第一に、アイドルファンとアニメファンのクロスオーバー効果である。原作者の高山一実氏本人に加え、元乃木坂46メンバーの西野七瀬氏が声優として参加。さらにJO1のメンバー木全翔也氏、タレントの内村光良氏も出演し、坂道グループとJO1の両ファンダムが舞台挨拶イベントを満員にした。SNSでの感想共有も活発で、従来のアニメ作品とは異なるファン層の形成に成功している。
第二に、物議を醸すシナリオが生んだバズである。学校生活を送りながらアイドルを目指す主人公・東ゆうの利己的な行動を真正面から描いた脚本が「サイコパス主人公」論争を巻き起こした。X(旧Twitter)では「#トラペジウム」「#東ゆうヤバい」といったハッシュタグで拡散され、「嫌悪と共感が同時発生する」という複雑な感想がリツイートを重ねて新たな観客を呼び込む循環を生み出している。
第三に、CloverWorksによる高品質な映像表現である。「ぼっち・ざ・ろっく!」「SPY×FAMILY」などでブランド化を果たしたアニメーション制作会社CloverWorksが担当し、特に光源処理やライブシーンの作画がアニメファンから高く評価されている。Filmarksのレビューでも映像美を称賛する声が目立ち、リピーター観客の獲得につながった。
配信開始で期待される新展開
プライムビデオでの配信解禁を受けて、作品への関心はさらに高まっている。配信発表後には「みたい」登録が約35%増加し、劇場で見逃した潜在的な視聴者層の存在が明らかになった。
noteでは感想・考察記事が700本を超える(検索ベース)など、「語りたくなる映画」として長期的なヒット曲線を描いている同作品。劇場興行は控えめでもソフト売上は上位、配信でのさらなる話題拡散と、従来の映画ヒット作とは異なる成功パターンを示している。
アニメーション制作はCloverWorksが担当し、主人公・東ゆうの声優には結川あさきが起用された。原作者の高山一実氏は2011年から2021年まで乃木坂46のメンバーとして活動し、現役時代から小説執筆を行っていた経験を持つ。実体験に基づいたリアルなアイドル描写が作品の大きな魅力となっている。
プライムビデオでの独占配信により、これまで劇場に足を運べなかった視聴者も気軽に作品を楽しめるようになる。今後、舞台挨拶付き再上映やスピンオフ企画が実現すれば、さらなるコア層の拡大も期待される注目作である。