クリプトン・フューチャー・メディア株式会社は3日、同社設立30周年を記念して、代表取締役の伊藤博之氏による初の著書『創作のミライ 「初音ミク」が北海道から生まれたわけ』を7月23日に発売すると発表した。中央公論新社から刊行される同書は、世界的な人気を誇るボーカロイド「初音ミク」の企画開発者として知られる伊藤氏の半生と、創作文化の未来への展望を綴った一冊である。

北海道の田舎町から生まれた創作革命の軌跡
伊藤氏は1965年、北海道標茶町で生まれ育った。「人よりも牛の数の方が多いような北海道の田舎町」と自ら表現する環境で成長し、一度は北海道大学で職員として勤務した経歴を持つ。30歳で起業し、音の商社として設立したクリプトンが、なぜ「初音ミク」という革新的なキャラクターを生み出すに至ったのか。本書ではその詳細な経緯が明かされる。
特に注目されるのは、初音ミクの二次創作を積極的に認め、推奨するという当時としては画期的な方針を打ち出した背景である。この決断により、ユーザー生成コンテンツ(UGC)を核とした新しい創作文化が誕生し、世界規模のボカロブームが巻き起こった。
AI時代の創作文化を展望する経営哲学
本書では、伊藤氏独自の経営哲学である「ツクルを創る」「収穫モデル」「メタクリエイター」といった概念も紹介される。これらの思想は、クリエイターが創作活動を行うための技術やサービス、発表の場を提供するという同社のミッションに深く根ざしている。
また、AIが音楽文化と社会にもたらす変革についても言及されており、創作の根源的な意味を問い直すとともに、AI時代における創作活動の未来像が描かれる。未来学者アルビン・トフラーとの出会いが、UGC文化の出現を予見するきっかけとなったエピソードも収録されている。
地方発信の意義を問う30年の歩み
クリプトンは設立以来30年間、一貫して札幌にオフィスを構え続けている。伊藤氏は「いまは昔ほど地方住まいに負い目を感じなくなったけど、当社ができた30年前はそうではなかった」とコメント。地方都市から「音楽を変えたい」という志で起業した経緯と、その後の展開について詳述している。
音楽や地方創生に携わる関係者にとっても示唆に富む内容となっており、地方から世界に向けて文化を発信することの可能性と意義が探求されている。
書籍詳細情報

基本情報
- 書名:創作のミライ 「初音ミク」が北海道から生まれたわけ
- 著者:伊藤博之(著)、柴那典(聞き手・構成)
- 出版社:中央公論新社
- 発売日:2025年7月23日(水)
- 定価:1,980円(税込)
- 判型:四六判、192ページ
- ISBN:978-4120059346
主要目次
- この先にどんな未来がやってくるのか
- インターネットが世界を変えると気付いた日
- すべてはクリエイターのために
- 初音ミクが切り拓いた新しい創作文化
- プロシューマーは社会をどう変えるか
- 北海道から発信する意味
- 音楽文化とAIのこれから
- 「創る」ということ
予約受付開始、全国書店で購入可能
同書の予約は既に開始されており、Amazon.co.jp、楽天ブックス、紀伊國屋書店ウェブストアをはじめとする主要オンライン書店のほか、全国の取扱い書店で購入可能。
聞き手・構成を担当した柴那典氏は、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)などの著書で知られる音楽ジャーナリストで、ボカロ文化に精通した専門家として本書の制作に参画している。
クリプトン・フューチャー・メディアは7月21日に設立30周年を迎える予定で、今後も「メタクリエイター」として創作文化の発展に貢献していく方針を示している。