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2025年1-5月の書店倒産件数、前年同期比90%減の1件まで大幅減少
株式会社帝国データバンクが6月3日に発表した調査結果によると、2025年1月から5月までの書店倒産件数は1件にとどまり、前年同期の11件から大幅に減少した。このペースが続けば、2025年通年での書店倒産件数は過去最少を記録する見込みである。
長らく「活字離れ」や電子書籍の普及、インターネット書店の台頭により苦戦を強いられてきた書店業界だが、ここにきて明確な持ち直しの動きを見せている。
業績悪化企業は約6割も、新たなビジネスモデルが成功
2024年度の書店業績を分析すると、34.4%の企業が赤字を計上し、減益を含めた業績悪化企業の割合は58.3%と依然として厳しい状況が続いている。コロナ禍で見られた『鬼滅の刃』などのビッグタイトル特需が期待できない中、雑誌や漫画本が売上の中心となる従来型書店の経営環境は引き続き困難である。
しかし一方で、2024年度に増益を達成した書店の割合は39.9%と過去10年で2番目に高い水準を記録した。この背景には、書店業界で進む革新的なビジネスモデル転換がある。
「滞在型書店」への転換が加速、文具・雑貨・カフェで多角化
書店業界では現在、従来の書籍販売モデルからの脱却が急速に進んでいる。具体的な取り組みとして以下のような「脱書籍」戦略が広がっている。
文具・雑貨事業の強化
- ボールペンやノートなどの文具取り扱いを大幅拡充
- 雑貨コーナーの大規模展開
- 大手雑貨店との共同出店
滞在型サービスの導入
- カフェ併設による長時間滞在の促進
- 交流拠点・休憩施設としての「目的地化」
- 書店を単なる販売店から体験型施設へ転換
専門知識を活かした新サービス
- 学習塾との共同による学生向け販売サービス
- 豊富な在庫と専門知識を活用した深耕戦略
- 書籍販売に新たな付加価値を提供
政府も書店振興に本腰、業界支援体制が充実
経済産業省は2024年3月に「書店振興プロジェクトチーム」を設立し、政府の骨太方針にも出版業や書籍小売業の支援が明記された。書店存続への社会的注目度が高まる中、各書店では縮小する書籍販売ニーズをいかに取り込み、来店客数増加につなげるかが重要な経営課題となっている。
書店業界の今後の展望
今回の調査結果は、書店業界が長期にわたる構造的課題を乗り越え、新たなビジネスモデルへの転換に成功しつつあることを示している。従来の書籍販売中心モデルから、多角化と体験価値を重視した「滞在型書店」への転換が、倒産件数の大幅減少と業績改善企業の増加につながっている。