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ウェス・アンダーソン監督、サタジット・レイ監督の映画美学への影響を語る 復元版『森の中の昼と夜』カンヌ上映を記念した対談で明かされた巨匠の遺産


『グランド・ブダペスト・ホテル』などで知られるウェス・アンダーソン監督が、インド映画界の巨匠サタジット・レイ監督から受けた美学的影響について詳しく語った。この対談は、レイ監督の1970年作品『アラニエル・ディン・ラトリ(森の中の昼と夜)』の復元版がカンヌ国際映画祭のカンヌ・クラシック部門で上映されたことを記念して行われた。

レイ作品との出会いが映画人生を決定づける

アンダーソン監督は18歳の時、テキサス州のビデオ店で偶然手に取った『ティーン・カニヤ』(1961年)がレイ作品との最初の出会いだったと振り返る。「レイの作品から見た映像と、レイ自身の写真を見て『これが私のなりたい姿だ』と思った」と語り、その後『パテル・パンチャリ』をはじめとするアプー三部作に深く影響を受けたことを明かした。

特に『森の中の昼と夜』については、「何年もの間、事実上入手不可能だった。私が見たコピーは品質が悪く、ベンガル語も英語も話せない人による翻訳だったが、それでも私の心に届いた」と当時を回想している。

レイ監督の緻密な演出手法

対談に参加したレイ作品の常連女優シャルミラ・タゴールは、レイ監督の独特な演出手法について詳しく証言した。同作品からレイ監督は撮影監督を使わず、自らカメラを操作するようになったという。「彼は自分の技術を完全にコントロールしていた。これほど勤勉な監督を見たことがない」とタゴールは語る。

興味深いことに、レイ監督は俳優たちに手書きの脚本を渡していたが、台詞の暗記は奨励しなかった。代わりに即興演技を許可する一方で、主演男優のソウミトラ・チャタジーには極めて厳格な演技指導を行っていたという。

復元プロジェクトの舞台裏

フィルム・ヘリテージ財団のシヴェンドラ・シン・ダンガルプールが手がけた復元作業では、コロナ禍の中でコルカタまで足を運び、奇跡的にオリジナルのカメラネガを発見したエピソードが明かされた。「アセテートフィルムで撮影された作品のオリジナルネガを見つけるのは非常に困難だが、倉庫でそれを発見した時は信じられなかった」とダンガルプールは振り返る。

復元作業の大部分はボローニャで行われ、特にカラーグレーディングでは撮影監督スブラタ・ミトラの仕事とアプー三部作を参考にしながら、レイ監督が望んだであろう映像の再現に努めたという。

現代映画への継承

アンダーソン監督は自身の最新作『アステロイド・シティ』で、『森の中の昼と夜』に登場する記憶ゲームのシーンを再現したことを認めている。「盗用したと言ってもいい。しかし、このゲームを通じてキャラクターについて多くを学ぶことができる」と語り、家族とも実際にこのゲームを楽しんでいることを明かした。

映画保存の意義

タゴールは復元の重要性について、『デヴィ』(1960年)の例を挙げて説明した。「復元前は最初のヴィサルジャン(神像流し)のシーンで何も輝いて見えず、音声も不明瞭だった。復元版を見た時の感動は忘れられない」と語り、映画保存活動への感謝を示した。

この対談は、映画芸術の継承と保存の重要性、そして偉大な映画監督の影響が時代と国境を越えて受け継がれていく様子を示す貴重な証言となっている。カンヌ映画祭での復元版上映により、サタジット・レイの芸術的遺産が新たな世代の映画ファンにも届けられることが期待される。

ソース:Wes Anderson Shares How Indian Cinema Legend Satyajit Ray Shaped His Aesthetic